日本鉄鋼連盟は、鉄鋼業における"GX"推進に向けた3つの業界ガイドラインを策定/改訂し2025年10月28日に公表しました。
"カーボンニュートラル"の実現という喫緊の課題に対して、鉄鋼業の関係事業者一人ひとりが正しくガイドラインの内容を理解し、具体的に実践していくことが今後ますます重要になりますが、「専門的な内容が多くて理解が難しい・・・」と感じる方も少なくないのではないでしょうか。
そこで今回のブログでは、GX推進に向けた3つの業界ガイドラインの説明の”前編”として、"GX推進に向けた業界ガイドライン策定/改訂の背景”を説明した上で、一つ目の"鉄鋼製品に関するカーボンフットプリント(CFP)製品別算定ガイドライン"について詳しくお伝えします。
”後編”として次回のブログで説明する残り2つの業界ガイドラインの説明と併せて、その内容の把握と理解及び今後の実務への活用にお役立ていただければ幸いです。
GX推進に向けた業界ガイドライン策定/改訂の背景
経済産業省は、製造時に"温室効果ガス"の発生を抑えた"グリーンスチール"の市場を拡大し、鉄鋼業の"GX"を推進する上での課題を整理するべく、"GX推進のためのグリーン鉄研究会"を設置しました。
そして日本鉄鋼連盟は、この研究会での取りまとめられた内容を踏まえて、鉄鋼製品に関わる以下の3つのガイドラインを策定/改訂し公表しました。
- 鉄鋼製品に関するCFP製品別算定ガイドライン
- GXスチールガイドライン(旧「グリーンスチールに関するガイドライン」)
- 非化石電力鋼材のCFP算定ガイドライン
次項では、"鉄鋼製品に関するCFP製品別算定ガイドライン"の内容を詳しく説明し、"GXスチールガイドライン"および"非化石電力鋼材のCFP算定ガイドライン"については、次回のブログで解説します。
また各ガイドラインの本文については、一般社団法人日本鉄鋼連盟のWEBサイトからご確認ください。
参考:GXスチールガイドライン・関連ガイドライン:一般社団法人日本鉄鋼連盟
"鉄鋼製品に関するCFP製品別算定ガイドライン"について

"鉄鋼製品に関するCFP製品別算定ガイドライン"は、鉄鋼製品の"カーボンフットプリント(CFP)"算定について、業界共通のルールを整備する為に策定されました。
鉄鋼業の"GX"推進の為には、GX製品の生み出す"価値"すなわち”GX価値”が、顧客にシッカリと理解され、選ばれる市場が必要になります。
ここでいう"GX価値”とは、"商品やサービスに関わるCO₂の総排出量"である"CFP"を如何に削減しているかを指します。
原則として"CFP"は低いほうが良いということになりますが、この"CFP"の算定方法が各社でバラバラでは信頼性が担保できないので、業界としての共通ルールを明確にし、"GX価値"を見える化する仕組みを確立する必要があった訳です。
既に2023年05月には、経済産業省と環境省によって"カーボンフットプリント ガイドライン"が策定されていましたが、鉄鋼業界ならではの解釈を加えて再構築したものが、今回発表された"鉄鋼製品に関するCFP製品別算定ガイドライン"です。
本ガイドラインは、以下の6つの章と別添(Annex)で構成されています。
- 本ガイドラインの位置付け
- 鉄鋼製品のGeneral CFPの算定⽅法
- GX価値を特定の鉄鋼製品に配分する場合の算定
- ⾮化⽯電⼒の属性を特定の鉄鋼製品に付与する場合の算定
- 配分に係る政府CFPガイドラインとの関係
- 算定結果の解釈・検証・報告
別添 (Annex)
各章の内容を順番にご紹介します。
1. 本ガイドラインの位置付け
この章では、本ガイドラインの目的と背景、鉄鋼の"GX"とその価値を反映した"CFP"の重要性等について説明しています。
更に関連ガイドラインとして次回のブログで解説する、より詳細なルールを規定した"GXスチールガイドライン"と"非化石電力鋼材のCFP算定ガイドライン"を紹介しています。
なお、"GXスチール"とは、企業が追加的な排出削減対策を行った結果"温室効果ガス"の排出量が大きく減った一方、削減活動にかかったコストが製品価格に上乗せされるため、通常の鋼材よりも高価な製品のことです。
また、"非化石電力鋼材"とは、製造プロセスで消費される電力に、再生可能エネルギーのような実質的に非化石電源由来の電力を使用した鋼材のことで、その製造には主に"電炉"が使用されます。
2. 鉄鋼製品のGeneral CFPの算定⽅法
この章では、本ガイドラインの"GX価値"配分等を抜きにした、全鉄鋼製品共通な一般的な"CFP"の算定方法を、"General CFP"として解説しています。
そしてその算定は、先述の経済産業省と環境省により2023年に策定・公表された、"カーボンフットプリント ガイドライン"の17ページに記載された"CFP算定の原則"に準拠することが示されています。(参考:カーボンフットプリント ガイドライン)
対象となる"温室効果ガス"は、CO₂のほか、CH₄(メタン)、N₂O(亜酸化窒素)等があり、これらは"気候変動に関する政府間パネル(IPCC)"の最新報告書に基づく"地球温暖化係数(GWP)"を用いてCO₂当量に換算することになっています。
"General CFP"を算定する”システムバウンダリー”つまり”対象範囲”は、原則として原材料調達段階から鉄鋼製品製造段階までとなっています。
具体的に対象となるプロセスとしては、"原料採掘〜製鉄所から出荷する準備が整った完成品"までのすべての製造プロセスが含まれることが望ましいとされています。
製造過程で発生するプロセスガスやスラグ等の共製品については、"ISO 14044:2006"に従って、システム拡張・物理的配分・または経済的配分を適用するとされています。(参考:ISO 14044:2006 環境マネジメント-ライフサイクルアセスメント-要求事項及び指針 | 日本規格協会 JSA Group Webdesk)
つまり鉄鋼製品の”General CFP”とは、鉄をつくる時に出る、”地球温暖化”につながる二酸化炭素等のガスの量を特別なルールで計算する方法のことで、鉄の原料を集めるところから、鉄の製品ができるまでのすべての作業が対象となり、どれだけ”地球温暖化”に影響を与えたかを、”CO₂の量”である一つの数字”General CFP”で分かりやすく表そうとしてる訳です。
3. GX価値を特定の鉄鋼製品に配分する場合の算定
この章では、企業自らが直接排出する"温室効果ガス"、すなわち"GHGプロトコル"でいう"Scope1"の削減価値を製品の"カーボンフットプリント"に反映させる為の2つの方式を紹介しています。
- GXマスバランス方式
- GXアロケーション方式
これら2つの方式の更に詳細なルールは、関連ガイドラインである"GXスチールガイドライン"に記載されています。当記事では、簡単にご説明します。
"GXマスバランス方式"
"GXマスバランス方式"は、企業が達成した組織内の削減実績量を任意の製品に割り当て、製品と共に"削減証書"を発行し、顧客に供給する方法です。
"GXアロケーション方式"
"GXアロケーション方式"の”アロケーション (Allocation)”とは日本語で"配分"や"割り当て"を意味しますが、"温室効果ガス"の総排出量を変えずに、削減実績量の範囲内で排出量を任意の製品に配分する方法のことです。
"GXアロケーション方式"は、顧客が”CFP”の削減証書を別途手に入れずに”低CFP製品”を直接購入できる様にする為に、"GX価値"が高いと見なされる"GXスチール"には相対的に"低いカーボンフットプリント"を割り当て、そうではない鋼材には、相対的に"高いカーボンフットプリント"を割り当て、排出量のバランスを取る仕組を提供しています。
つまり”GXアロケーション”とは、鉄をつくる会社が、環境に良い方法で作った特別な鉄である”GXスチール”に、”地球温暖化”への影響が少ないよ”というお墨付きを割り当てて、顧客が簡単に”環境に優しい鉄”を買えるようにするための仕組みです。
4. ⾮化⽯電⼒の属性を特定の鉄鋼製品に付与する場合の算定
この章では、化石燃料を使わずに発電された電気を活用して"CFP"を低減する場合のルールについて定めています。
なお、⾮化⽯電⼒の活用は、他社から供給される電気・熱・蒸気の使用に伴って間接的に排出される"温室効果ガス"、すなわち"Scope2"に該当します。
間接的に排出である"Scope2"によって主に”電炉”で生み出される"⾮化⽯電⼒鋼材"は、自社の直接排出である"Scope1"によって生み出される"GXスチール"と、環境価値や意義が根本的に異なっている為、製品に価値を付ける際は、"⾮化⽯電⼒鋼材"か"GXスチール"か、いずれか一方を選択する必要があります。
このルールの詳細については、関連ガイドラインである"非化石電力鋼材のカーボンフットプリント算定ガイドライン"に記載されていますので、次回のブログで詳しく解説させていただきます。
5. 配分に係る政府CFPガイドラインとの関係
この章では、経済産業省と環境省により2023年に策定・公表された"カーボンフットプリント ガイドライン"と、日本鉄鋼連盟により2025年に策定・公表された"鉄鋼製品に関するCFP製品別算定ガイドライン"の関係について記載されています。
6. 算定結果の解釈・検証・報告
この章では、"CFP"の算定結果の解釈のステップや留意点が説明されており、原則として算定結果は検証されることが望ましいとされ、"GXスチール"または"⾮化⽯電⼒鋼材"に付随する価値には、第三者検証が必須であると明記されました。
まとめ
今回は、日本鉄鋼連盟が公表した重要ガイドラインに関して、その背景と"鉄鋼製品に関するカーボンフットプリント製品別算定ガイドライン"の内容について詳しく解説しました。
鉄鋼業における"GX"は、現時点では一般の注目度は発展途上ですが、世界的な脱炭素化の潮流の中で、日本は国としても鉄鋼業界としても主体的にリーダーシップを発揮する方針であり、今後は規制や補助金等の政策の面でも具体的な動きが加速していく事が想定されます。
此等の動向に取り残されることなく、この大きな変革の波に乗って国内外での事業展開を加速していく為にも、今回ご紹介した”日本鉄鋼連盟の業界ガイドライン”の内容を正しく理解しておくことが極めて重要だと私たちは考えています。
本記事の内容に関するご質問や、具体的な実務へのご相談などがございましたら、以下のフォームよりお気軽にお問い合わせください。
最後まで読んでいただき感謝申し上げます。引続き、皆様の"為になるお役立ち"に繋がる情報発信を続けてまいりますので、また次回もよろしくお願いいたします。ありがとうございました。
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