2025年11月23日(現地時間22日)にブラジルのベレンで開かれた、通称、"COP30"と呼ばれている"国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議"が閉幕しました。
今回の決議には、具体的な化石燃料の削減についての内容は盛り込まれないままでしたが、たとえその合意内容に課題が残ったとしても、企業が"温室効果ガス"排出量の削減に取り組む重要性は変わらないと私たちは考えています。
また先日日本では、日本鉄鋼連盟が"GX"推進の為の業界ガイドラインの策定/改訂を行いました。
"温室効果ガス"排出量の多い鉄鋼業とその関連事業者が、環境負荷の低減に向けた具体的な姿勢と努力を示す重要性は、ますます高まっています。
しかし、こうした取り組みの必要性は認識しつつも、「実際に何から手を着ければいいのかわからない…」と戸惑う事業者の方も多くいらっしゃるのではないでしょうか?
そこで今回は、取り組みの足がかりとして、"温室効果ガス"排出量の国際的な規準である"GHGプロトコル"について解説した上で、その中でも"Scope1(事業者自らの直接排出)"に関して、当社が実際に行った取り組みをご紹介します。
本記事が皆さんが"脱炭素化"に取り組む上での一助になれば幸いです。
"GHGプロトコル"とは?
![[JP]二酸化炭素](https://www.daiwast.co.jp/hs-fs/hubfs/%5BJP%5D%E4%BA%8C%E9%85%B8%E5%8C%96%E7%82%AD%E7%B4%A0.jpg?width=500&height=334&name=%5BJP%5D%E4%BA%8C%E9%85%B8%E5%8C%96%E7%82%AD%E7%B4%A0.jpg)
"GHGプロトコル"とは、企業や組織が"温室効果ガス(GHG)"の排出量を算定・報告する際に適用される国際基準のことで、"GHG"は、"Green House Gas"つまり”温室効果ガス”を、"プロトコル"は、”規約”や”手順”を意味します。
同基準が2001年10月に発表されて以降、"温室効果ガス"排出量の算定と報告の方法を国際的に標準化し、気候変動対策への取り組みを強化する為の基盤として、国内外の多くの企業で広く採用されています。
Scope(スコープ)分類
"GHGプロトコル"では、企業の"サプライチェーン"全体にわたる"温室効果ガス"について、その排出源に応じて"Scope1(スコープ1)"、"Scope2(スコープ2)"、"Scope3(スコープ3)"の3つに分類しています。ここでの"Scope(スコープ)"とは、"範囲"や"領域"を意味します。それぞれについてご説明します。
"Scope1"は自社による直接排出
"Scope1"とは、企業が自社で直接排出する"温室効果ガス"を指します。
具体的には、工場/事務所のボイラーや発電機等で燃料を燃焼させる際に排出される"二酸化炭素"や、社用車の使用時に発生する燃焼に伴う"排気ガス"等が挙げられますが、企業自らが所有/管理する排出源からの"温室効果ガス"であることから、企業はそれぞれが自社の努力で削減する必要があります。
当社でいえば、工場における製品の製造プロセスや車両の使用時に発生する"温室効果ガス"が該当しています。
"Scope2"は他社供給のエネルギー使用に伴う間接排出
"Scope2"とは、他社から供給される電気・熱・蒸気のエネルギー使用に伴って間接的に排出される"温室効果ガス"を指します。
例えば、電力会社から購入した電力を自社オフィスで使う場合、その電力は発電所でCO2を排出しながら作られています。この排出は、自社が間接的に関与したものと見なされるため、"間接排出"として"Scope2"に分類されます。
"Scope3"はその他すべての間接排出
"Scope3"とは、企業が行う事業活動のなかで、材料の供給元や顧客など自社以外の他社が排出する"温室効果ガス"のことを指します。ざっくり言えば、"Scope1"と"Scope2"以外の全てが"Scope3"に該当します。
非常に広範な"Scope3"は、原材料の調達、製品の輸送・販売、従業員の通勤・出張、製品使用後の廃棄等、全15カテゴリに細かく分類されています。
"Scope1"の算定方法は?
"Scope1"の計算式自体はとてもシンプルで、以下の公式を用います。
"温室効果ガス"排出量 = "活動量" × "排出係数(排出原単位)"
"活動量"とは
"活動量"は、"温室効果ガス"をどれだけ排出したかを計算する為の、"活動"の大きさや規模を表す数字を指します。具体的には、生産量、使用量、焼却量等が該当します。
| "活動" | "活動量"に該当するもの | 例 |
| 工場でモノを作る | 生産量 | ・製品を「◯トン」生産した |
| 車や機械を動かす | 使用量 | ・ガソリンを「◯リットル」消費した |
| ゴミを処理する | 焼却量 | ・ゴミを◯トン燃やした |
例えば、車両を長く運転すればするほどガソリンの使用量(=活動量)が増え、それに伴って"温室効果ガス"の排出量も増えます。"温室効果ガス"の排出量と"活動量"には、相関関係がある訳です。
"排出係数"とは
"排出係数"は、"活動量1あたり、どれだけの"温室効果ガス"が出るか"について設定した数字のことで、"排出原単位"と呼ばれる場合もあります。
計算時は、環境省や経済産業省などから公表されている、燃料や"活動"の種類ごとに設定された"排出係数"を使用します。例えば、燃料として使用する"LPガス(液化石油ガス)"の"排出係数"は、2.99です。
参考:環境省_算定方法・排出係数一覧
"Scope1"の計算ステップ
"Scope1"の排出量を算定する際は、主に以下のステップで行います。
- 排出源と"活動量"を特定する: 自社が所有または支配する全ての"温室効果ガス"排出源を特定し、それぞれの"活動量"のデータを集めます。
- "排出係数"を適用する: 集めた各"活動量"に対し、"排出係数"を調べます。
- 排出量を計算する: "活動量"と"排出係数”が分かったら公式に当てはめ、それぞれの排出量を算出します。
- すべての排出量を合計する: 算定対象の"温室効果ガス"には、CO₂の他にメタン(CH₄)や亜酸化窒素(N₂O)及びフロン類等が含まれますが、CO₂以外のガスは、"地球温暖化係数(GWP)"という数字を用いて、CO₂換算量に換算してから合算します。
それぞれの、"地球温暖化係数(GWP)"については、以下の環境省のマニュアルをご覧ください。
参考:温室効果ガス排出量算定・報告マニュアル(Ver6.0) (令和7年3月)
大和鋼管の"Scope1"における主な取り組み
当社も、事業を行う中で発生する"温室効果ガス"を削減する為、様々な対策を行なっています。この項では、"Scope1"に関連する取り組みをご紹介します。
LPガス使用量を2019年比で40%以上削減
製造プロセスの抜本的な見直しにより、"LPガス"の年間使用量を2019年比で40%以上削減し、"温室効果ガス"排出量を大幅に削減しました。具体的なScope1の数値は以下の通りです。
- 2019年 = LPガス年間使用量791t x 2.99(排出係数)=2,365tCO₂
- 2024年 = LPガス年間使用量437t x 2.99(排出係数)=1,307tCO₂
※tCO₂= "温室効果ガス"の排出量や吸収量を表す単位
2019年当時、鋼管に使用していた内面塗料は、製造工程において環境や人体に悪影響を与える揮発性有機化合物"VOC"を発生させる為、その処理に"LPガス"を燃料とする脱臭設備が必要でした。
その後、製造ライン内で使用する内面塗料を環境負荷の低い"ミズエコ"へ完全に切り替え、設備も焼却処理を伴わない電気駆動の回収設備に更新した為、揮発成分の回収は継続しつつも、"LPガス"を使用した焼却処理が不要になったのです。
結果として、"LPガス"の使用量を大きく抑制し、"温室効果ガス"排出量の大幅な削減につながりました。
"バッテリーフォークリフト"の導入
本社工場において、燃料を燃やさずに動く"バッテリーフォークリフト"を導入し、稼働させています。
![[JP]加工バッテリーフォークリフト](https://www.daiwast.co.jp/hs-fs/hubfs/images/blog/%5BJP%5D%E5%8A%A0%E5%B7%A5%E3%83%90%E3%83%83%E3%83%86%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%95%E3%83%88.jpg?width=375&height=500&name=%5BJP%5D%E5%8A%A0%E5%B7%A5%E3%83%90%E3%83%83%E3%83%86%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%95%E3%83%88.jpg)
エンジン式フォークリフトを"バッテリーフォークリフト"へ切り替えることによって削減できた"Scope1"に該当する"温室効果ガス"の数値は、以下の通りです。
- エンジン式フォークリフト(1台あたり) = 軽油年間使用量5.44㎥ x 2.62(排出係数) = 14.3tCO₂
- バッテリーフォークリフト(1台あたり) = 0 (※電力のため"Scope2"で算出)
上記の様に、"バッテリーフォークリフト"は、電力で動く為"温室効果ガス"の排出量が"0"になり、1台分が"Scope1"の対象から外れることになりました。
更にバッテリーフォークリフトは、排気ガスや有害物質を排出しません。
そもそも"バッテリーフォークリフト"の導入は、軽油から出る排気ガスが屋内で作業する作業者へ悪影響を及ぼすことが懸念された事がきっかけでしたが、結果としての人に優しい施策が、そのまま環境への優しさにもつながった好例となりました。
まとめ
今回は"GHGプロトコル"の概要と算定方法を解説するとともに、当社が"Scope1"削減のために取り組んだ具体的な事例をご紹介しました。
"温室効果ガス"の排出量の算定は、"温室効果ガス"の削減に向けた取組の第一歩です。今回のブログが、取り組みのヒントとなれば幸いです。
とは言っても、私たちの取り組みもまだまだ道半ばであるのが実情です。今後も、"Scope1"の排出量削減の課題に対して、出来ることに真っ当/前向きに取り組んで参りたいと思っております。
当社の環境対策の取り組みやブログの内容についてご質問やご相談等がございましたら、以下のページからお気軽にお問い合わせください。
最後まで読んでいただき感謝申し上げます。何かご質問や要望等があれば、何時でもご遠慮なくご連絡ください。引き続きよろしくお願いいたします。ありがとうございました。
執筆者紹介
- タグ:
- 環境
