前回のブログでは、一般に“丸パイプ”と呼ばれる鋼管の重量計算の方法と、計算のときに使う係数0.02466の謎について説明させて頂きました。
今回は、“角パイプ”と呼ばれる鋼管の1本当たりでの重量計算の方法について説明したいと思います。
角パイプという鋼管の重量計算の方法
先ず、角パイプという鋼管の重量は、次の計算式を使って求めることができます。
- 角パイプの重量(kg)=角パイプ1m当たりの重量(kg/m)×角パイプの長さ(m)
では、角パイプ1m当たりの重量(kg/m)は、どのように計算するのでしょうか?角パイプ1m当たりの重量(kg/m)は、「単重」と呼びますが、次の計算式で求めることができます。
- 単重(kg/m)=0.0157×肉厚×(短辺の長さ+長辺の長さ-3.287×肉厚)
最後に、求めた数字は、JIS Z 8401をもとに、有効桁数3桁に丸めましょう。
角パイプの単重の計算式の意味と、こうなった理由とは?
ところで、この単重の計算式にも、謎深い数字が出てきます。どうしてこのような計算式になったか、これまで考えたことがない方が殆どではないでしょうか。そこで、これを機会に、図を使ってわかりやすく謎を解明したいと思います。
先ず、前回のブログで説明した丸パイプの計算方法と考え方は基本的に同じです。下図のように、パイプの断面積に長さ(1m)を掛けて鉄板の体積を計算し、次に鉄の比重(7.85)を掛け、最後に1000で割り算して単位調整するだけで求めることができます。
角パイプの断面積はどのように計算するか?
しかしながら、角パイプの断面積をどのように計算するか、私自身も含め疑問に思われた方も多いのではないでしょうか。結論を言うと、角パイプの断面積は、下図のとおりA.赤の面積 B.青の面積 C.緑の面積に分けてそれぞれ計算し、最後に合計すれば求められます。
ここで補足ですが、下図のように角パイプの角は90度の直角ではなく、丸みを帯びていると考えます。この丸みを帯びた4つの角を合体し丸パイプの断面に見立て、その丸パイプの半径の長さは肉厚の2倍、外径の長さは肉厚の4倍と考えます。
それでは、先ず、A.赤の面積、 B.青の面積、そしてC.緑の面積を、順番に計算していきましょう。
A.赤の面積
(短辺の長さ×2本分 - 肉厚の2倍(=半径)×4角分)×肉厚 ➡️ (短辺の長さ×2 - 肉厚×8)×肉厚
B.青の面積
(長辺の長さ×2本分 - 肉厚の2倍(=半径)×4角分)×肉厚 ➡️ (長辺の長さ×2 - 肉厚×8)×肉厚
C.緑の面積
前回のブログで説明した、丸パイプ(鋼材)の計算方法を用いて計算すると、
(肉厚の4倍(=外径)-肉厚)×3.1416(=円周率)×肉厚 ➡️ 肉厚×3×3.1416×肉厚
次に、A.赤の面積、B.青の面積、C.緑の面積を合計してみましょう。ここからは少し複雑なため、わかりやすく順番に整理したいと思います。
1) 上記に記載した、赤の面積+青の面積+緑の面積をそのまま転記する
(短辺の長さ×2 - 肉厚×8)×肉厚+(長辺の長さ×2 - 肉厚×8) ×肉厚+肉厚×3×3.1416×肉厚
2) “×肉厚”を[ ]の外に出して、まとめる
[(短辺の長さ×2 - 肉厚×8)+(長辺の長さ×2 - 肉厚×8)+肉厚×3×3.1416]×肉厚
3) “-肉厚×8”を( )から出して、-肉厚×16としてまとめる[(短辺の長さ×2)+(長辺の長さ×2) -肉厚×16+肉厚×3×3.1416]×肉厚
4) “×2”を、短辺と長辺の( )から、それぞれ外に出す
[(短辺の長さ+長辺の長さ)×2-肉厚×16+肉厚×3×3.1416]×肉厚
5) “-肉厚×16”と“肉厚×3×3.1416”を“-肉厚×”でまとめる
[(短辺の長さ+長辺の長さ)×2-肉厚×(16-3×3.1416)]×肉厚
6) “×2”を[ ]から外に出した後、2で割り戻す
[(短辺の長さ+長辺の長さ)×2×1/2-肉厚×(16-3×3.1416)×1/2]×肉厚×2
7) 前半の“×2×1/2”を“×1“へ変換する
[(短辺の長さ+長辺の長さ)×1-肉厚×(16-3×3.1416)×1/2]×肉厚×2
8) 後半の“1/2”を(16- 3×3.1416)に掛ける
[(短辺の長さ+長辺の長さ)×1-肉厚×(16×1/2-3×1/2×3.1416)]×肉厚×2
9) 後半の“1/2”(計2ヶ所)をそれぞれ計算し、その計算結果に置き換える
[(短辺の長さ+長辺の長さ)×1-肉厚×(8-1.5×3.1416)]×肉厚×2
10) (8-1.5×3.1416)を計算し、その計算結果に置き換える
[(短辺の長さ+長辺の長さ)-肉厚×3.287]×肉厚×2 ← 角パイプの断面積の合計が導けました!
角パイプの断面積を単重の計算式に当てはめてみると・・・
更に、前の図で説明した単重の計算式に、この角パイプの断面積の合計を当てはめてみます。つまり、この断面積の合計に長さ(1m)を掛けてパイプを作っている鉄板の体積を計算し、次に鉄の比重(7.85)を掛け、1000で割り算して単位調整、最後に数字を並び替えると、冒頭で説明した単重の計算式とピッタリ一致します! まるで、人類の難問であったフェルマーの最終定理を解いたアンドリュー・ワイルズの気分ですね。
[[(短辺の長さ+長辺の長さ)-肉厚×3.287]×肉厚×2] ×7.85 × 1/1000
⇒(短辺の長さ+長辺の長さ-肉厚×3.287)×肉厚×0.0157
この数字を並び替えると・・・
0.0157×肉厚×(短辺の長さ+長辺の長さ-3.287×肉厚)=単重(kg/m)に!
まとめ
私自身、正直なところ数学はあまり得意でない方ですが、このようにして計算式を丁寧に紐解くことで、“なるほど、こうだったのか!”と理解でき、目から鱗が落ちる思いでした。単なる計算式の丸暗記だけでは勿体ない、むしろ物事の本質をきちんと理解してより高い思考力を養っていきたいと思います。
次回は、“JIS Z 8401”に基づく有効桁数の丸め方をご紹介します。引き続き、どうぞご期待ください!
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