2025.02.05

"鉄スクラップ"を更に活かす技術の進化とは?!"脱炭素"や"カーボンニュートラル"を支えるテクノロジーをご紹介。

近年は、各産業で"脱炭素"や"カーボンニュートラル"を実現する為の取組みが進められています。CO2排出量が多い鉄鋼業界では、"鉄スクラップ"の活用が環境に優しい社会を作る為の鍵の1つと考えられています。

本ブログでは、「"鉄スクラップ"について知りたい‼」という方の為に、"鉄スクラップ"に関する様々な情報を、3回に渡ってシリーズでお届けしています。

第3回の今回は、日々進化を続ける"鉄スクラップ"関連の技術について解説します。ぜひご参考にしていただければ幸いです。

【第1回】"鉄スクラップ"は"脱炭素"に有効?!カーボンニュートラルに繋がる知っておきたい再生資源の基礎知識。
【第2回】世界の"鉄スクラップ"事情や如何に?!各国の動向をわかりやすく解説。

課題が多い"鉄スクラップ"の活用

[JP]鉄スクラップ_くず鉄

鉄鋼製品の製造には大量のエネルギーが必要であり、CO2排出量も極めて多い事から、鉄鋼業界は環境負荷を減らす努力を進めています。様々な方法が模索される中、現実的な方法として期待を集めるのが、古くなった鉄鋼製品や製造/加工の過程から発生する"鉄スクラップ"の活用です。

鉄は何度でも再利用できる資源です。そんな鉄から成る"鉄スクラップ"は、一見ただの廃棄物ですが、"電炉"や”高炉”で溶かして処理を施す事で、再び鉄鋼製品として蘇ります。また、"鉄スクラップ"を使った製鉄はCO2排出量も大幅に削減できる為、カーボンニュートラル社会には不可欠の存在といえます。

"鉄スクラップ"が抱える課題

まるで良い事ずくめのように思える"鉄スクラップ"ですが、活用上の課題も指摘されています。代表的な例を見てみましょう。

品質のばらつき

"鉄スクラップ"は、発生源や処理方法によって成分や形状、大きさが異なり、品質にばらつきが生じます。

例えば、メーカーの工場、建設業の解体現場、廃棄された自動車や家電製品のように、どこからどうやって発生したかで"鉄スクラップ"の成分や形状は異なります。

また、"鉄スクラップ"を処理する際、破砕か圧縮か、機械処理か手作業かによっても、品質に差が生じます。

https://www.photo-ac.com/main/detail/910658?title=カラフルなスクラップ%E3%80%80鉄くず%E3%80%80模様%E3%80%80廃材

不純物の混入

主に"鉄スクラップ"を用いる”電炉”での製鉄では、一般的には”高級鋼”の製造が難しいとされています。その大きな要因が、不純物の混入です。

鉄鉱石を用いる”高炉”での製鉄では、そもそも鉄鉱石とは基本的には酸化している鉄なので、純度の高い鉄鋼を作る事が可能です。

一方、"鉄スクラップ"には銅・錫・プラスチック・塗料等の不純物が混入している場合があります。このような不純物は"鉄スクラップ"の回収/分別の手間を増やすだけでなく、製鋼プロセスや鋼材の品質にも関わってきます。

このような不純物は、鋼材の強度や耐食性に影響を及ぼします。特に銅や錫といった元素は"トランプエレメント(Tramp element)"と呼ばれ、厄介な存在と見なされています。完全に除去する事が難しく、再利用する度に徐々に蓄積されてしまうからです。

技術革新が進む"鉄スクラップ"業界

[JP]技術革新_テクノロジー

"鉄スクラップ"が抱える課題を解決するべく様々な技術開発が進められ、業界は大きな変革期を迎えています。どんな事例があるのかを見ていきましょう。

AIやIoTの活用

生成AIの登場により、2023年頃から日常生活で急速に身近な存在になったAIですが、産業の現場では、それ以前からAIの導入/活用が進められています。

例えば、中国廃鋼鉄応用協会によれば、中国ではAIによる"鉄スクラップ"の検収システムが多くの企業で採用されています。中国は世界最大の鉄鋼生産国であり、"鉄スクラップ"の自給率も極めて高く、技術開発も旺盛です。AIやIoT、データ通信等の最先端技術を用いた"鉄スクラップ"のスマート工場も完成し、輸送や在庫管理を大幅に効率化させる取組みも進んでいるとされます。

 参考リンク:中国鉄スクラップ産業の現状と発展動向(中国廃鋼鉄応用協会)

日本でも、AIを活用した技術開発が行われています。株式会社EVERSTEELの鉄スクラップAI解析システム(鉄ナビ検収AI)は、"鉄スクラップ"の大きな課題である品質のばらつきや不純物の混入を解決する為のアプリケーションです。カメラで撮影された"鉄スクラップ"の画像をAIが解析し、種類や等級を判別します。作業の効率化だけでなく、安全性の確保や検収員不足の解決も期待できます。

 参考リンク:鉄スクラップ解析アプリケーション(EVERSTEEL)

鋼材の品質向上

"鉄スクラップ"を溶かして再生させた電炉鋼は、これまで高炉鋼に比べて加工性や強度の面で劣るとされてきました。鉄鉱石から製鉄する高炉鋼とは異なり、"鉄スクラップ"には合金元素や非金属といった不純物が含まれている為です。

しかし近年、この状況は大きく変化しています。鉄鋼メーカー各社が様々な企業と協働し、高品質な電炉鋼の開発/製造に力を入れているのです。"特殊鋼"においては、"鉄スクラップ"の不純物を有効活用して鋼材を製造しているケースもあります。

"カーボンニュートラル"の流れの後押しもあり、高炉鋼と肩を並べる電炉鋼の製造が今後更に活発化する事が期待されます。

 参考リンク:エコな製鉄 “電炉”が熱い!|おはBiz|おはよう日本

"電炉"の進化

"電炉"そのものも、アップデートが図られています。従来、"電炉"は"高炉"に比べ、原料に含まれる不純物の制御や高純度化が難しいという課題があり、高級鋼の製造には不向きとされてきました。

しかし、日本製鉄は、この課題を克服し、"電炉"で高級鋼を製造する技術開発に積極的に取り組んでいます。

既に2022年には、瀬戸内製鉄所広畑地区に新設した"電炉"の商業運転を開始しています。これは石炭を使用せず、電炉一貫で最高級電磁鋼板が生産できる世界初の設備です。日本製鉄は、この設備で培われた知見や技術を活かし、2030年度には大型電炉の実機化を目指しています。

 参考リンク:第10回 産業構造審議会 グリーンイノベーションプロジェクト部会 エネルギー構造転換分野ワーキンググループ 日本製鉄株式会社 説明資料

まとめ

今回は、日々進化を続ける"鉄スクラップ"関連の技術についてお伝えしました。

鉄鋼業界では環境負荷の少ない産業システム構築を目指して、日夜技術革新が進められています。"鉄スクラップ"は脱炭素化時代の鉄鋼業に欠かせない存在として、その重要性を増していくでしょう。

今回で、"鉄スクラップ"に関するシリーズは終了です。"鉄スクラップ"について理解を深める一助にしていただけましたら幸いです。

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