"地球温暖化"は、まさに待ったなしの世界的な最重要課題の一つであり、日本も国全体として政府を中心に、"脱炭素社会"を目指して、"カーボンニュートラル"に関連する様々な取り組みを進めています。
日本の産業分野において鉄鋼業は、特に温室効果ガスの筆頭である"二酸化炭素 (CO₂)"の排出量が非常に多い為、これを如何に削減していくかが日本のみならず世界からも注目を浴びています。
一般的に"カーボンニュートラル"の議論においては、鉄鉱石と石炭を原料とする"高炉"よりも、"鉄スクラップ"を原料とする"電炉"の方が、"CO₂"の排出量も少ないとされて注目されがちです。
しかし、実際に"鉄"を多く扱う"鋼管メーカー"である私たちは、"高炉"と"電炉"はそれぞれ"カーボンニュートラル"の実現に異なる役割を担っていると認識しており、"脱炭素社会"を実現する為には、それぞれをバランスよく進化させてしていくことが重要であると考えています。
そこで今回は、日本の鉄鋼業の現状を踏まえ、"カーボンニュートラル"及び"脱炭素社会"の実現に向けて、"高炉"と"電炉"が担うそれぞれの役割や意義について私たちの考えをお伝えします。
日本のカーボンニュートラルの現状と鉄鋼業
皆さんも既にご存知のとおり、日本政府は2050年の"カーボンニュートラル"の実現に向け、2030年に2013年比で46%の"CO₂"の排出量削減を目標に掲げています。
一方で、"地球温暖化対策計画"では、温室効果ガス別の排出削減・吸収量として、産業部門では2030年度に38%、2040年度に57~61%の"CO₂"の削減目標が示されています。
参考リンク:地球温暖化対策計画(令和7年2月18日閣議決定)|環境省
産業部門の"CO₂"の排出量で、鉄鋼業はその38%を占めており、その取り組みは極めて重要であり不可欠です。
さらに、鉄鋼業における"CO₂"の排出量は、90%以上が"高炉"プロセスからの排出です。
近年、"電炉"が注目されているのは、"高炉"に比べて排出する"CO₂"の量が約4分の1に抑えられ、環境負荷を軽減できるメリットがある為です。
"高炉"と"電炉"の違いとは?
まずは、"高炉"と"電炉"の違いを簡単におさらいしておきましょう。
日本の粗鋼生産において、約8割が鉄鉱石と石炭を主な原料とする"高炉法"で、残りの約2割が"鉄スクラップ"を主原料とする"電炉法"で製造されています。
"高炉"を用いた製鉄では、炭素を用いて多くの"酸化鉄"を含む"鉄鉱石"を還元処理し、"鉄"を取り出します。その後、"転炉"で精錬して成分調整を行い、鋳造や加工を経て鉄鋼製品が作られます。
"電炉"は電気炉の略で、"鉄スクラップ"が主な原料です。アーク放電により発生する放電熱で"鉄スクラップ"を融解させ、鋳造や圧延といった様々な処理を行い、鉄鋼製品を作りあげます。
"電炉"と"高炉"が共に不可欠な理由
"電炉"は、基本的に使用済みの鉄製品である"鉄スクラップ"を電気の熱で溶かし、新しい鉄に生まれ変わらせるプロセスです。
"鉄"は地球上に極めて多くの量が存在し、何度でもリサイクルが可能なユニークな資源ですが、"電炉"はこの特性を最大限に活かし、"CO₂"の排出量を抑えながらリサイクルを繰り返すことで、鉄鋼製品を何度も生まれ変わらせ続けてくれる訳です。
"電炉"による鉄の循環は、"カーボンニュートラル"及び"脱炭素社会"の実現に大きく貢献するといえます。
世界の鉄鋼需要動向及び電炉と高炉の関係性
しかし、世界全体としての鉄鋼需要は、新興国の経済発展やインフラ整備などを背景に、当面はまだまだ拡大傾向が続くと考えられています。
"電炉"の原料である"鉄スクラップ"は、社会で使われて役目を終えた鉄鋼製品を回収したものなので、その発生量には限りがあり、発生場所も先進国を中心に偏っています。
"鉄スクラップ"は、年々増えてはいますが、現時点で世界の鉄鋼需要のすべてを既存の"鉄スクラップ"の量だけで賄うことはできません。
当面増え続ける世界の鉄鋼需要に応え、社会に不可欠な"鉄"を確保するためには、一次供給として新たに鉄鋼を作り出す"高炉"が引き続き不可欠といえます。
"高炉"が新たな鉄鋼を供給し続けることで、将来の"電炉"の原料となる"鉄スクラップ"のストックが蓄積され、"電炉"によるリサイクルにつながる為、社会全体が必要とする"鉄"の需要を満たすという目的に対して、"高炉"と"電炉"は、まさに補完的な関係なのです。
最先端の社会的欲求に応える"高炉材"の"質"と"量"
"高炉材"のもう1つの存在意義は、その製法で実現しうる鉄が発揮する"機能性"の高さにあります。
"高炉"で製造される鉄は、鉄鉱石から不純物を取り除いて精錬するため、"鉄スクラップ"を原料とする際に混入しやすい"銅"や"錫"といった不純物の影響が極めて少なくなり、繊細な成分調整による複雑な機能性の実現を可能にします。
つまり、高品質な"鉄"を安定して大量に製造できるのは、"高炉"の大きな強みなのです。
近年は、世界規模で自動車のEV化を筆頭とした様々な機能性/環境性への要求や、太陽光発電や風力発電等の再生可能エネルギー関連設備の大型化/高機能化が急速に進んでいます。
これらを機械や設備を製造する為には、"軽いが丈夫"や"強いが加工し易い"等、多様かつ時には相反する機能性や安全性の要求に応えられる品質の鋼材、つまり高機能で高品質な"鉄"が必要です。
"電炉材"も進化し続けていますが、現時点で最先端の社会的要求に応えているのは、"質"と"量"のいずれにおいても"高炉材"だと言っても過言ではありません。
昨今話題になった日本製鉄によるUSスチールの買収についても、この様な背景・経緯から実現にいたったのだと考えると、理解が得やすいのではと思います。
"高炉"における"水素製鉄"という革新
"高炉材"が不可欠である一方で、現時点での”CO₂”の排出量の多さという根本的な課題を乗り越えなければ、”カーボンニュートラル”及び"脱炭素社会"は実現しません。
この課題を解決する為に日本の鉄鋼メーカー各社は、"高炉"のプロセスそのものを”脱炭素化”の観点で革新する"水素製鉄"の研究開発に積極的に取り組んでいます。
"水素製鉄"とは?
従来の"高炉法"では、"酸化鉄"が多く含まれる"鉄鉱石"から、酸素を取り除く還元の工程で蒸し焼きされた"石炭"である"コークス"、つまり"炭素"を使いますが、この際に"炭素(C)"と"酸素(O₂)"が結びついて"CO₂"が発生します。
これに対し、"水素製鉄"は、還元材として炭素ではなく"水素 (H₂)"を使う技術であり、"鉄鉱石"を構成する"酸化鉄"を還元する際に発生するのは"CO₂"ではなく、"H₂O"すなわち"水"になる訳です。
つまり、"水素製鉄"が実現すれば、鉄を造り出す工程において"CO₂"の排出を抜本的に減らすことができ、まさに"CO₂"を出さないクリーンな鋼材を供給し続けることが可能になります。
しかし、この"水素製鉄"という夢のような技術の開発には時間がかかります。
現時点で"水素製鉄"は、2030年までに商用第1号機の稼働を、2040年代半ばまでに大規模な実用化を目指しており、広く社会実装されるには、少なくとも20年〜30年は必要だと推察されます。
"水素製鉄"が実現するまでは・・・
"カーボンニュートラル"及び"脱炭素社会"の実現には、まず"電炉"によって世の中に存在する"鉄スクラップ"を最大限に有効活用し、可能な限り"脱炭素化"を推進することが現時点では不可欠です。
それと同時に、今後見込まれる世界的な需要増と高度化する社会要求に応えるためには、"高炉"による"量"と"質"の両面で"鉄"を安定供給し続けることも欠かせません。
つまり現時点では、いきなり全ての鋼材需要を"電炉"で応えることも、すぐに"高炉"を"水素製鉄"にすることも不可能です。
まずは、この二つの製鉄プロセスをバランスよく共存させそれぞれ進化させていくことが、現実的かつ着実に"カーボンニュートラル"及び"脱炭素社会"の実現へ貢献して行く、日本の鉄鋼業がとるべきアプローチではないかと私たちは考えています。
まとめ
今回は、日本の鉄鋼業の現状と"カーボンニュートラル"及び"脱炭素社会"の実現を念頭に、"電炉"と"高炉"の意義や役割について私たちの考えをお伝えしました。
鉄鋼製品を多く扱うメーカーとして私たちは、"脱炭素化"を足元から真摯に向き合うべき重要な社会課題だと認識しています。
"カーボンニュートラル"及び"脱炭素社会"の実現に貢献する為に、私たちは、その実現に必要な技術的な背景や社会的な実状を可能な限り正しく理解したうえで、今我々にできることに"真っ当、前向き"に取り組んでまいる所存です。
今後とも、"カーボンニュートラル"及び"脱炭素社会"の実現においても、皆さまの"為になり、役に立つ"情報共有/意見交換をできるように努めてまいりますので、引き続きよろしくお願いいたします。
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