2025.11.19

日本の鉄鋼市況はどうなる?!東鉄の12月HC売出し価格据え置きを踏まえた今後への考察と展望。

女性初の総理大臣として高市総理が誕生し、日経平均株価も一時50,000円の大台に乗って、日本経済の回復が大いに期待される一方で、政府の積極財政への期待と地政学的な不安が重なり円安傾向が続いています。

その様な環境下で、2025年11月17日に東京製鐡は、12月契約販価で「形鋼類は¥3,000/㌧値上げ、その他品種は価格据え置き」と発表しました。

この発表を受けて、鉄鋼製品を取り扱う皆さまの中には、「今後の建材市況はどうなるんだろう?」、「今後の鋼材価格はどうなるの?」と疑問に感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか?

そこで今回は、東京製鐡の価格発表の背景と今後の電炉業界の市況について、主にホットコイル (HC)に着目して情報を収集した上で、私たちの考察をご紹介します。今後のお取引/ご商売のご参考にしていただければ幸いです。

東鉄の発表内容

2025年11月17日に東京製鐡は、12月契約販価で「形鋼類は¥3,000/㌧値上げ、その他品種は価格据え置き」と発表しました。東京製鐵のコメントについては、HPを確認してください。
参照:東京製鐵HP_販売情報

①東京製鐡の販売価格について考察

続いて、東京製鐡の販売価格について、スクラップの購入価格との差であるメタルスプレッドを用いて今年のHCの価格推移を分析/統合し、考察してみたいと思います。

以下は、東京製鐵の①スクラップ購入価格 (特級/宇都宮陸上)と②HCの販売価格 (厚み:1.7mm〜22.0mm)、③メタルスプレッド (HC販売価格からスクラップ購入価格の平均を引いたもの)について、2025年分の推移を表とグラフにまとめました。

[JP][Blog]市況の表2
[JP][Blog]市況のグラフ

2025年11月17日に発表したHCの12月契約販価は据え置きとなっていますが、主原料となるスクラップの10月末の購入価格は今年の最高値を更新しています。

従って、販売価格を据え置いていますがスクラップの購入価格が上がっているので、粗利に相当するメタルスプレッドに関しては大きく減少しています。

②中国のホットコイル先物価格からの考察

東京製鉄のコメントにもある通り、世界最大の鉄鋼生産国である中国では、依然、景気後退局面にある為、政府主導による鉄鋼減産の方針はあるものの、鉄鋼需給の改善には乏しく、鋼材の先物市況は低迷が続いています。

以下に、上海先物取引所のホットコイルの先物価格を表とグラフにまとめました。
参考:上海期货交易所(Shanghai Futures Exchange: SHFE)

[JP][Blog]先物価格の表

[JP]先物のグラフ

2024年10月時点では2025年10月出荷開始日で3,613元/トンのベンチマーク価格でしたが、2025年10月時点で2026年10月出荷開始日のベンチマーク価格は3,259元/トンで相場が下がる事が見込まれています。

つまり、中国のホットコイル市況は引き続き軟調に推移していくと考えられますが、足元で高市総理による台湾有事に際しての日本の対応に関する発言が波紋を呼び、日中関係は急速に冷え込んでいる状態です。

従って今後対日貿易に対してどのような動きがでてくるのかは、更に不透明な状態だと認識しています。

③円/ドル為替相場からの考察

輸入材の流入に関して大きな影響力を持つのが為替です。国際取引の多くはドル決済で行われるので、製品を海外から日本に輸出し資金を回収する場合には、円/ドル相場は収益に対して極めて大きな影響力を持ちます。

従って日本への鋼材輸出を行う場合は、海外メーカーや日本への輸出入を行う業者は、円高/ドル安の傾向であれば資金回収が安心して有利にすすめられ、円安/ドル高であれば不安が伴い不利に進んでしまいがちです。

以下に、日本円の為替(対ドル)の推移を表とグラフでまとめました。

[JP]為替の表

[JP]為替のグラフ

上記を表とグラフを踏まえると、円/ドル相場は足元では1ドル=150円を超え、円安/ドル高傾向にあります。つまり海外メーカー及び日本への輸出業者にとっては為替損がでやすい環境下です。

一方でトランプ関税の違法性を米国の最高裁が審査している状況や半導体関連の不透明が市場動向は円高/ドル安に、日中関係の悪化及び日本の景気後退は円安/ドル高につながるので、現時点で年内での円安/ドル高傾向は継続すると見込まれますが、その先はまだまだ不透明だと我々は認識しています。

今後の市況について

足元で日本のHCの市況は、04月と10月に東京製鐵が¥3,000/㌧の値下げを行う事で底値を探る動きが継続する中でスクラップ価格が上昇し、高市政権の発足の影響で円安傾向に振れたので、東京製鐵の12月のHC売出し価格は値上げが期待されました。

しかし、依然中国のホットコイル市況は軟調で、国内の建材市況ももう一歩勢いに欠けたので、東京製鐵の12月のHCの売出し価格は据え置きにとどまり、年内はこのまま推移する様相です。

今後も中国から日本に安価なHCが輸入され相場が下がる懸念もありますが、円安傾向や地政学的な背景からその確からしさは更に不透明で、今後継続してスクラップの買取価格で高止まりする場合には、東京製鉄も早ければ01月もしくは旧正月明けの02月から値上げを実施し、大いにあると考えられます。

一方で、中長期的に米国は日本の円安に懸念を持っている点や、足元で起こった日本の株式市場の急速な冷込みを背景に円高/ドル安への懸念を踏まえると、当面中国からの輸入材の流入が拡大/継続する傾向は想像に難くない状況です。

そういった状況を考えると我々日本の鉄鋼に関わる一人ひとりは、主体的に環境性能の高い鋼材の採用を以て非価格競争力を強化する等の取組を業界全体で推進すると共に、積極的な合従連衡/統合による国内事業の効率・競争力の強化、更には円安への耐性を向上する為の海外販路の開拓や事業展開等に”真っ当、前向き”に取り組んでいく事がポイントになると認識しています。

まとめ

今回は、高市政権発足を踏まえて日本の経済回復が期待される中で、東京製鐡のHCの12月販売価格据え置きの背景と今後のHC市況について、関連情報の分析/統合を行なった上で、私たちの考察をご紹介しました。

中長期の視点では、中国の生産過剰状況は当面継続する事が見込まれ、地政学的な要素も相まって為替も不安定な状況が続く中で、如何に日本の鋼材市場を環境性能や高機能性を製品を育成・展開すると共に、少子高齢化社会に耐えうる高効率の市場形成を実現して行くかが問われている事は変わっていません。

一方足元では、スクラップの価格が上昇し、鋼板類の需要も徐々に回復して市中在庫の過剰感は和らぎ、円安傾向が顕著である状況下で、東京製鐵がホットコイルの12月の販売価格を据え置いたことには少し期待を裏切られました。

その背景と意図を推察すると、中国市況の継続的な低迷によってまだまだ価格の安い輸入材への懸念が払拭されず、国内市況の更に強い回復に期待を寄せ、値上げのタイミングを伺っている事が感じられます。

今後は、高炉製品に関しても様々な情報が入っていると思いますので、当社は引き続き市場の動向を綿密に調査しながら、先々の見積に関しては、可能な限り”為になるお役立ち”を念頭に、足元のみならずその先を見据えた丁寧な対応に努めて参りたいと考えています。
 
見積価格をご相談したい場合には、当社の営業担当者か以下のフォームから気軽にご相談ください。

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最後までお読みいただき感謝申し上げます。引き続き皆さまにとって”為になり、役に立つ”情報を発信して参りたいと思いますので、引き続きご支援・ご協力を何卒宜しくお願い申し上げます。ありがとうございました。

 

執筆者紹介

田中 辰弥
田中 辰弥
大和鋼管工業(株)企画部企画 課長。理工学部で得た知見を応用し、メッキパイプの構造解析に情熱を注ぐエキスパート。NETIS登録申請やハウスの構造診断といった高度な技術分野を担いながら、西日本での豊富な営業経験を活かした現場/顧客視点で、信頼性の高い技術情報を発信。

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