2022.05.11

メタルスプレッドって何?!高炉と電炉の比較で見えてくる今後の鉄鋼製品の価格動向。

現時点でロシア/ウクライナ情勢の解決は今年の秋までは掛かる可能性が囁かれ、世界的に様々な分野でインフレ傾向が長期化し物価が不安定になる傾向が深まり、2022年04月28日には1ドル当たり130円台の円安の為替相場に突入し国内経済も更なるインフレの加速が懸念されています。

このような不安定な状況だからこそ、少しでも正確に先々の鉄鋼製品の価格動向を予測し、少しでも良いタイミング/妥当な価格で鉄鋼製品を購入したいと考えている需要家の方々も多くいらっしゃるかと思います。

鉄鋼製品の価格が上がる/下がるは需要動向や為替等で一定の予想は可能ですが、主原料価格と鉄鋼製品の価格の相関性を理解し定量的に把握すればより正確な推測を行う事が可能なのではないでしょうか?

そこで今回は主原料価格と鉄鋼製品の価格の相関性を大まかに表す"メタルスプレッド"という指標を用いて、高炉メーカ/電炉メーカーのそれぞれについて我々なりに分析し、今後の鉄鋼製品の価格動向について考察してみた内容をご紹介させていただければと思います。

メタルスプレッドとは?

メタルスプレッドとは鉄鋼業界では鉄鋼一次製品に相当する鋼材の出荷単価から、それを製造するのに使用する主原料価格を差し引いたモノを指し、鉄鋼メーカーの基本的な収益力を見る上で重要な指標となっています。

具体的に出荷単価や主原料価格の定義は厳密に決まっている訳ではなく、各メーカーや調査した会社独自のデータを引用してメタルスプレッドが算出されますが、一般的に高炉メーカーの主原料は鉄鉱石と原料炭、電炉メーカーの主原料はスクラップとして扱われています。

高炉メーカー/電炉メーカー共に、メタルスプレッドから主原料以外の副資材の費用や人件費などの操業に必要な経費を賄い、これらを差し引いた分が収益となりますが、殆どの鉄鋼一次製品の場合では主原料の構成比がダントツに大きいので、鉄鋼メーカーの基本的な収益力を測る指標として広く活用されている訳です。

国内高炉メーカーのメタルスプレッドについて


今回は我々独自の分析として、主原料価格は中国が輸入する鉄分62%仕様の鉄鉱石のCFRの価格と強粘結炭という原料炭のCIFでの価格を活用しました。一方で国内高炉メーカーの主力の鉄鋼一次製品である熱延コイル価格は、東京地区の問屋置き場仲値ベースでの本体価格を活用しました。過去3年間のメタルスプレッドの推移を計算/分析してみた結果は以下のグラフの様になりました。

 
高炉メーカーのメタルスプレッド(東京/問屋置き場仲直ベース)高炉 価格推移

参照データ: 熱延コイル価格は産業新聞社HPから、原料炭価格(強粘結炭)は新電力ネットHP から、鉄鉱石価格は世界のネタ帳HPから、為替相場は日本銀行時系列統計データから

まず国内高炉メーカーは、2019年に現日本製鉄が日新製鋼を完全子会社化し、その後は高炉等の設備の統廃合を進める等の積極的な合理化を行っている為、需給環境が比較的タイトな方向に向かっており値上げが浸透し易い環境となっています。

さらに2021年以降は世界の鉄鋼生産の約5割以上を握っている中国が、地球環境対応で主導権を握るべく減産を積極的に進め始めている事もあり、世界的にも需給環境がタイトになりやすくなっています。

そしてメタルスプレッドが2020年末以降に拡大しているのは、新型コロナウイルスの影響からロックダウン等で供給面で断続的にタイト化したり、経済回復に伴って鉄鋼需要が回復したことにより、主原料だけでなく副資材の費用や操業に必要な費用が上昇したため、高炉メーカーがメタルスプレッドを拡大しやすい環境が実現したと考えられます。

またその背景には持続可能な開発目標への取組も含め、世界各国で急速にゼロカーボンスチール等の地球環境に優しい鉄への開発ニーズが高まっており、この為の研究開発等への投資をメタルスプレッドで賄う必要が大きく影響している訳です。

この様な状況を踏まえると仮に今後インフレが収束した場合でも、減産や集約により収益を改善しながらゼロカーボンスチール等の将来への布石を積極化したい国内高炉メーカーのメタルスプレッドは、以前の水準に戻る可能性は低く、今後も一定のレベル以上で推移する事が予想されます。

特に2022年に入って以降は主原料価格の値上げに熱延コイル価格の値上げが追いついておらず、足元では国内高炉メーカーのメタルスプレッドはトン当たりおよそ6万3千円と急速に低下していますが、この要因は短期的にロシア/ウクライナ情勢に伴い主原料価格が急速に上昇した事、そして想定以上に急速に円安が進んだ事が大きく影響していると考えられます。

さらには市中在庫が高い水準にあるため値上げが直ちに東京地区の問屋置き場価格に反映されていない事も一因だと思われますが、足元で高炉各社は大幅な値上げ方針を提示しており、中国のゼロコロナ対応の影響は受けつつもメタルスプレッドは当面着実に拡大することが予想されます。

国内電炉メーカーのメタルスプレッドについて

一方で国内電炉メーカーの過去3年間に於ける主原料価格と出荷単価の目安として主力の鉄鋼一次製品である熱延コイル価格(東京地区/問屋置き場仲値ベース/本体価格)及びメタルスプレッドの関係は以下のグラフになります。

国内電炉メーカーのメタルスプレッド(東京/問屋置き場仲直ベース)

電炉 価格推移

参照データ 熱延コイル価格:産業新聞社HP 鉄スクラップ価格産業新聞社HP

国内電炉メーカーのメタルスプレッドも2020年末以降に上昇している事が分かります。この要因も国内高炉メーカーと同様に新型コロナウイルスや中国の鉄鋼製品の減産の影響による需給動向の変化と、主原料であるスクラップの価格動向及び電力価格をはじめとした操業に必要な経費への機敏な対応が功を奏していると考えられます。

直近2022年04年18日に東京製鐵株式会社が発表した販価は全品種トン当たり3千円のアップで市場の予想を下回る値上げ幅になったとされていますが、およそ電気料金1円/kWh上昇で粗鋼1トン当たり700円のコスト増に相当する電力価格が上昇である事、足元では製品の市中在庫がまだまだ多い事、足元で高炉メーカーに対するメタルスプレッドでは優位性がある事を考えると、収益確保の意味で妥当な判断である事が分かります。

しかし国内電炉メーカーも2022年以降はメタルスプレッドが縮小し直近ではトン当たりおよそ6万7千円となっている状況ですし、今後は高炉メーカーがメタルスプレットの拡大を念頭に積極的に製品価格の値上げを牽引する事が想定されますので、市中在庫が入れ替わるタイミングで電炉メーカーのメタルスプレッドは拡大を更に積極化する事が予想されます。

まとめ

今回は鉄鋼メーカーの基本的な収益力を見る上で重要な指標である"メタルスプレッド"をご紹介するとともに、我々独自に国内の高炉メーカー/電炉メーカーの”メタルスプレット”を計算しその推移を分析し、今後の鉄鋼製品の価格動向について考察した内容をご紹介させて頂きました。

急速なインフレの影響で高炉メーカー/電炉メーカーともにそれぞれの主原料価格や副資材の費用など操業に必要な費用が上昇しておりメタルスプレッドは一旦急速に狭まっている状況ですが、今後は高炉メーカーが積極的に製品値上げを牽引するので、市中在庫が入れ替わるタイミングで電炉メーカーも追随しメタルスプレッドは拡大していく事が予想されます。

足元では中国のゼロコロナ対策による需要の落込みで市況への悪影響が懸念されますが、少なくともインフレ傾向は当面続くと想定され、中国材の流入の少ない日本国内では、市中在庫の減少に伴って鉄鋼製品の着実な価格上昇が想定されます。

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