2025.01.22

世界の"鉄スクラップ"事情や如何に?!各国の動向をわかりやすく解説。

古くなった鉄鋼製品や、製造/加工の過程から発生する"鉄スクラップ"。世界的に"脱炭素"や"カーボンニュートラル"の実現が課題となる中で、製鉄時のCO2排出量を抑えられる"鉄スクラップ"への注目が高まっています。

そこで本ブログでは、「"鉄スクラップ"について知りたい‼」という方の為に向けて、関連する様々な情報を、3回に渡ってシリーズでお届けします。

第2回の今回は、各国における現在の"鉄スクラップ"事情をお伝えします。ぜひ"カーボンニュートラル"や"グリーン・トランスフォーメーション "への理解を深める一助にしていただければ幸いです。

 【第1回】"鉄スクラップ"は"脱炭素"に有効?!カーボンニュートラルに繋がる知っておきたい再生資源の基礎知識。

日本の"鉄スクラップ"事情

[JP]日本

まず、私たちの日本国内における"鉄スクラップ"の状況を見ていきましょう。

"粗鋼生産量"のうち"電炉鋼"の割合は4分の1

"普通鋼電炉工業会"によれば、"鉄スクラップ"を利用して"電炉"で作られる"電炉鋼"は、2022年暫定値で日本の"粗鋼生産量"の約4分の1を占めます。

 参考リンク:電炉鋼のシェア(普通鋼電炉工業会)

"粗鋼"とは、まだ圧延や鍛造といった加工をしていない状態の鋼であり、いわば鉄鋼製品を作る為の素材です。

"粗鋼"には鉄鉱石を主原料とする"高炉鋼"と、"鉄スクラップ"を主原料とする"電炉鋼"の2種類があり、現時点の日本では、シェアの大部分を"高炉鋼"が占めます。

"電炉鋼"が"粗鋼生産量"に占める割合の世界平均値は約3割弱である為、グローバルな観点では、日本の数値は若干低い水準といえるでしょう。

"電炉"への転換の動き

[JP]電炉

日本では、化石エネルギー中心の産業構造・社会構造をクリーンエネルギー中心へ転換する"グリーン・トランスフォーメーション(GX)"の取組みが始まり、従来の"高炉"から、製鋼工程でCO2排出量が少ない"電炉"への生産体制の転換が進められています。

2023年(令和05年)10月には、経済産業省が"GX経済移行債"を活用し、"排出削減が困難な産業におけるエネルギー・製造プロセス転換支援事業"の公募を行いました。これは企業の設備投資等を支援する事業であり、鉄鋼関係では"従来の高炉・転炉から大幅に排出を削減する革新的な電炉への転換"が挙げられています。

 参考リンク:排出削減が困難な産業におけるエネルギー・製造プロセス転換支援事業(経済産業省)

"鉄スクラップ"の国内需要は製造業の低迷や建設投資の停滞によって減少傾向でしたが、前述したような環境対策の影響もあり、今後は需要が増加していく可能性があります。

しかし、"電炉"への転換には課題もあります。原料スクラップから混入される銅・錫・クロム等の不純物や、大気から混入する窒素の影響で鋼の成分をコントロールする事が難しく、成分調整能力が"高炉"と比較して劣る為、ハイテン等の高級鋼の製造が困難です。

 参考リンク:産業構造審議会グリーンイノベーション部会エネルギー構造転換分野WG説明資料

"鉄スクラップ"輸出国だった日本だが…

日本は"鉄スクラップ"を国内消費するだけでなく、海外へも輸出しています。輸出先はアジアが中心で、中でも韓国が圧倒的に多く、次いでベトナム・台湾の順に輸出量が多くなっています。また最近では、特にバングラデシュへの輸出量が徐々に増えてきています。

 参考リンク:鉄スクラップ輸出実績(一般社団法人日本鉄源協会)

"鉄スクラップ"輸出国として有名だった日本ですが、近年は世界的な景気減速やコロナ禍の余波、為替の変動、中国の鋼材輸出等の影響を受け、輸出量は減少傾向となっています。

"鉄スクラップ"の輸出は、海外の経済状況や政策に大きく左右されます。また、国内で"電炉"への転換が進めば"鉄スクラップ"の調達競争も激しくなると考えられ、輸出に関して今の日本は転換期を迎えているといえます。

世界各国の"鉄スクラップ"事情

[JP]世界_地球儀

日本を除く主要国の"鉄スクラップ"事情についても見ていきましょう。

アメリカ

アメリカは世界最大の"鉄スクラップ"輸出国です。"一般社団法人日本鉄源協会"によれば、2023年におけるアメリカの輸出量は1,630万トンです。トップクラスの"鉄スクラップ"輸出国といわれる日本でさえ690万トンですから、その規模の大きさがわかります。

 参考リンク:世界鉄スクラップ流通フロー(2023暦年)(一般社団法人日本鉄源協会)

アメリカはその国土の広さと車社会に伴う豊富なスクラップの供給を背景に、"電炉"による鉄鋼生産が主流になっており、"粗鋼生産量"に対する"電炉"のシェアは約70%と極めて高いのが特徴です。

このシェアの高さには、"ミニミル"と呼ばれる比較的小規模な"電炉"の存在が大きく影響しています。

"ミニミル"はそもそも設備投資が低く、電力が豊富で国土の広いアメリカでは、操業コストも輸送コストも抑えられ環境負荷も軽減できる為、90年代前後から急速に普及してきました。

アメリカ最大の鉄鋼メーカーであるニューコア・コーポレーションは、"ミニミル"の最大手でもあります。

EU及びイギリス

EU及びイギリスも"鉄スクラップ"の輸出量が多い地域ですが、EU域内での流通がメインとなっているのが特徴です。

EUには、"電炉"シェアが高い国々が複数あり、ルクセンブルグ・ポルトガル・ブルガリア・スロベニア・クロアチア・ギリシアの6か国は"電炉"のシェアは100%。イタリアも84%と、アメリカを上回る数値です。各国で"電炉"の導入も進む中で、今後EU及びイギリスにおける"鉄スクラップ"の需要は更に高まる可能性があります。

近年、EU域外への"鉄スクラップ"輸出を制限する動きが出てきています。"欧州鉄鋼連盟(EUROFER)が"鉄スクラップ"を戦略的に重要だと見なし、EU域内での循環性を高めようとする動きも見られます。こうした背景には、"鉄スクラップ"不足への懸念や産業競争力を維持する狙いがあると考えられます。

中国

世界最大の鉄鋼生産国である中国は、副産物である"鉄スクラップ"の発生量も世界最大である一方、輸出量は多くありません。内需の高さや品質面の課題が背景にあると考えられます。

従来、中国では"高炉"での製鉄が圧倒的主流であり、"電炉"のシェアは約10%と低いものでした。しかし近年は、環境保護の観点から、政府主導で"鉄スクラップ"を主原料とする"電炉"への転換が進められているのと同時に、高炉にスクラップを投入しCO2排出量を軽減するケースも増えています。

また、品質が低いとされてきた中国の"鉄スクラップ"も、選別システムの導入や不純物除去技術の開発等、品質向上に向けた取組みが進められています。

中国の鉄鋼に関する動向は世界の鋼材需要や価格に大きな影響を及ぼします。"鉄スクラップ"も同様であり、輸入/輸出量や価格は中国の動きに左右されると考えられますので、中国の動向には引き続き注目です。

アジア諸国

基本的に、アジア諸国は"鉄スクラップ"の輸出国ではなく、輸入国となっています。

例えば、トルコは世界最大の"鉄スクラップ"輸入国であり、その動向は世界の"鉄スクラップ"価格や需給バランスに大きな影響を与えています。"電炉"を用いた鉄鋼生産が盛んで、原料となる"鉄スクラップ"を大量に輸入しています。トルコは世界でトップクラスの鉄筋生産国でもある為、この結びつきが"鉄スクラップ"の高い需要を支えているといえます。

また韓国も鉄鋼生産が盛んで、"電炉"転換の動きもあり、"鉄スクラップ"の需要が高い国です。自国で賄えない不足分を輸入しており、日本は韓国にとって"鉄スクラップ"の主要な輸入先の1つです。ただ、最近は割安な中国産鋼材が出回り、日本産"鉄スクラップ"の需要は低迷しています。

マレーシアやフィリピン、インドネシアといった東南アジア諸国も"鉄スクラップ"の主要な輸入国です。経済成長率の高い国々はインフラ整備や工業化も活発である為、建設や製造業で鉄鋼の需要が高まれば、"鉄スクラップ"の需要も増加すると考えられます。

"鉄スクラップ"需給の展望

[JP]屑鉄_鉄スクラップ

2024年時点では、"鉄スクラップ"の世界的な需要は低迷し、価格も下落傾向にありました。その原因として、建設需要の落ち込みや鋼材の過剰供給等が考えられます。一方で、世界経済の成長に伴い、鉄鋼需要は長期的には拡大傾向にあります。

世界的に"電炉"の導入が広がっており、それに伴って"鉄スクラップ"の需要は増加すると考えられます。国によっては、輸出規制に乗り出す動きも見られます。質の高い"鉄スクラップ"は常に求められており、脱炭素化の推進や技術革新等も踏まえると、スクラップ市場は中長期的に成長を続けると予想されます。

市場の拡大は、同時に品質確保や安定供給、価格変動リスク、選別技術の向上といった様々な課題をもたらします。"鉄スクラップ"関連事業者が今後も競争力を維持する為には、こうした課題への対応力がより一層求められるでしょう。

まとめ

今回は、各国における現在の"鉄スクラップ"事情をお伝えしました。

持続可能な社会の実現を目指す動きが強まる中で、無限にリサイクル可能かつCO2排出量削減に貢献する"鉄スクラップ"は益々重要性を増しています。"鉄スクラップ"を知ることは、世界各国の環境対応や”カーボンニュートラル”や”GX”の取組を考えることにも繋がっているのです。

次回は最終回として、進化する"鉄スクラップ"関連の技術についてお届けしますので、お楽しみにしていただければ幸いです。

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