近年の環境問題に関する世界的なトレンドとして、"脱炭素"や"カーボンニュートラル"、"持続可能性"といったキーワードが挙げられます。この傾向は鉄鋼業界も同様であり、CO2排出量を抑える為の取り組みが進められる中で、"鉄スクラップ"が注目を集めています。
そこで本ブログでは、「"鉄スクラップ"について知りたい‼」という方の為に、"鉄スクラップ"に関する様々な情報を、3回に渡ってシリーズでお届けします。
第1回の今回は、"鉄スクラップの基礎知識”を分かりやすく解説します。具体的には、概要や種類、利用方法等をお伝えしますので、ぜひご参考にしていただければ幸いです。
"鉄スクラップ"とは
鉄鋼業界における"スクラップ"とは、本来の役割を終えた使用済みの鉄鋼製品や、加工等の過程で発生したくず状の鉄を指します。具体例として、製品の製造過程で出る端材や、建物/自動車/機械等を解体した際に発生した鉄材が挙げられます。
"鉄スクラップ"は、その名のとおり鉄からなる"スクラップ"のことで、かつては"古金(フルカネ)"や"鉄屑"と呼ばれていました。
"鉄スクラップ"はただの廃棄物ではなく、リサイクルが可能な資源であり、製鉄の原料として利用されています。屑状になった古い鉄はかつては刀や鉄器として、現代でも鉄鋼製品へと生まれ変わり、人々の暮らしを支え続けています。
なお、鉄以外にもアルミニウム・銅・スズ・金といった非鉄金属のスクラップもあります。
"鉄スクラップ"の種類
一口に"鉄スクラップ"と言っても、実は、発生源や品質/形状で細かく分類されています。"鉄スクラップ"がどのような種類に分けられるのかを見ていきましょう。
発生源による分類
"鉄スクラップ"は大きく発生源で区別され、"自家発生スクラップ"及び"市中スクラップ"の2つに分類されます。
"自家発生スクラップ"とは、鉄鋼メーカーが鉄鋼を生産/加工する際に発生する"スクラップ"のことで、切断された端材や不良品等が該当します。これらは発生したメーカー内ですぐに再利用される為、市場にはほとんど流通しません。
"市中スクラップ"は、簡単に言えば"自家発生スクラップ"以外の"スクラップ"を指し、更に2種類に分けられます。
まず1つは、自動車や機械等のメーカーが製品を製造/加工する段階で発生する、"工場発生スクラップ"もしくは"加工スクラップ"と呼ばれるものです。もう1つは、製品が用途を終えたり老朽化により発生する"老廃スクラップ"です。
これら"市中スクラップ"は回収業者や持ち込みによって収集され、扱いやすくなるように切断や粉砕、プレスといった加工を施された後、再利用に回されます。
"日本鉄源協会"による検収用の分類
"鉄スクラップ"の回収にあたり、"一般社団法人 日本鉄源協会"が"鉄スクラップ検収統一規格"を定めています。
参考リンク:(社)日本鉄源協会 2008年6月改訂
上記の規格に基づいて"鉄スクラップ"はチェックされ、等級が決まります。実際の規格の中身を見てみましょう。
検収対象の"鉄スクラップ"は、"炭素鋼スクラップ"と"銑スクラップ"の2種類に分けられます。これらの違いは"炭素含有量"で、炭素量が0.02%~2.14%が含まれるのが炭素鋼、それ以上の炭素量が含まれるのが銑です。
"炭素鋼スクラップ"と"銑スクラップ"に分類された後、更に品種ごとに分けられます。ここで言う品種とは、"鉄スクラップ"の加工方法や形状による違いのことです。
"炭素鋼スクラップ"は、以下の5品に分けられます。
- 規格内の寸法に切断加工した"ヘビー"
- 圧縮して直方体状にした"プレス"
- 非金属類が含まれた混合品を切り刻んで選別した"シュレッダー"
- 鋼板加工製品の製造/加工時に発生する切りくず及び打ち抜きくずの"新断"
- 部品等の製造/加工時に発生する切削くず及び切り粉の"鋼ダライ粉"
"ヘビー" | ![]() |
"プレス" | ![]() |
"シュレッダー" | ![]() |
"新断" | ![]() |
"鋼ダライ粉" | ![]() |
一方、"銑スクラップ"は、以下の2品に分けられます。
- 使用済み鋳物製品を細かく打ち砕きブロック状にした"故断"
- 鋳物製品の生産時に発生する切削くずの"銑ダライ粉"
これらは、それぞれ寸法や重量、酸化の程度などによって等級で区分されます。このように厳格な基準が定められていることによって、"鉄スクラップ"の品質管理及びリサイクルの効率化につながる訳です。
"鉄スクラップ"の利用方法
"鉄スクラップ"は、製鋼の原料となります。国内で消費されるスクラップの6割は"電炉(電気炉)"で消費されています。融解された後、新たな鉄鋼製品として生まれ変わる訳です。まさに"鉄スクラップ"は"持続可能"な資源といえるでしょう。
国内で発生した"鉄スクラップ"のほとんどは日本国内で再利用されますが、一部は海外へも輸出されています。"一般社団法人 日本鉄リサイクル工業会"の資料によれば、"自家発生スクラップ"を除くと、2023年度に供給された数量の8割となる約2545万トンが国内で使われ、残り2割の約685万トンが輸出されました。
参考リンク:日本の鉄スクラップ(2024年11月25日):一般社団法人 日本鉄リサイクル工業会(JISRI)
日本は鉄鉱石のような天然資源こそ少ないものの、実は"鉄スクラップ"という重要な資源を持っているのです。
今、"鉄スクラップ"が注目される理由
鉄鋼業界において、"鉄スクラップ"は"脱炭素"やカーボンニュートラル"の観点から注目が集まっています。リサイクルして使えるというだけでなく、製鉄時に発生するCO2の排出量を抑制でき、それが環境負荷の軽減につながると期待されている訳です。
産業の中でも鉄鋼業はCO2の排出量が極めて多いことから、いかにCO2排出量を減らすかが業界の重要な課題となっています。日本でも様々な技術開発が進められており、その中の1つが"鉄スクラップ"を原料とする製鉄なのです。例えば、鉄鉱石を原料とする"高炉"と比べたとき、同じ鉄の製造量であれば、"電炉"で"鉄スクラップ"を利用した場合、排出するCO2の量を約4分の1に抑えられるといわれています。
参考リンク:エコな製鉄 “電炉”が熱い!|おはBiz|おはよう日本
CO2の発生が極めて少ない方法で製造された鉄鋼は"グリーンスチール"と呼ばれ、今後の市場拡大も見込まれています。"脱炭素"やカーボンニュートラル"という世界的な流れに乗って、"鉄スクラップ"の重要性はこれから益々増していくものと予想されます。
なお、"グリーンスチール"については以下のブログで詳しく解説しておりますので、こちらも併せてご覧ください。
ブログ:”グリーンスチール”って何?!”水素還元製鉄”を中心に鉄鋼業界の脱炭素化の取り組みを紹介。
まとめ
今回は、"鉄スクラップ"の知っておきたい基礎知識についてお伝えしました。
ご覧いただいたように、"鉄スクラップ"はただの産業廃棄物ではなく、CO2排出量削減への期待を担う優秀なリサイクル資源なのです。
次回は、"鉄スクラップ"の各国における業界事情や市場動向をお届けしますので、お楽しみにしていただければ幸いです。
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