2022.03.30

鉄鋼市況はどう変わる?!ロシア/ウクライナ情勢を踏まえ私たちが今できる事は?

前回のブログでロシア/ウクライナ情勢が国内の鉄鋼市況に与える影響をご紹介しましたが、およそ1ヶ月経過した現在も状況は刻一刻と変化しており、事態が終息する兆しは現在も見えてきていません。

 リンク:大和鋼管工業ブログ_ロシア・ウクライナ情勢の影響は如何に?!今後の国内の鉄鋼市況について。

そこで今回はロシア・ウクライナ情勢の影響で急騰している鋼材市況について改めて確認し、今後の鉄鋼製品の購入を考えている皆さまへ、私たちなりの購買タイミングや対応方法に関する考え方を共有させていただきたいと思います。

ロシアは世界第2位の鉄鋼輸出国である

2020年のロシアの鉄鋼製品の輸出額は25,694百万USDで、中国の46,475百万USDを次ぐ世界で2番目の鉄鋼製品輸出国でした。基本的にこの傾向は近々まで継続していたと私たちは認識しています。 

2020年 鉄鋼製品の輸出実績[百万円USD][JP][Blog]鉄鋼輸出ランキング出典:UNCTAD 

そしてロシアが輸出している鉄鋼製品は"ビレット"や"ブルーム"及び"スラブ"といった半製品の割合が非常に高い事が特徴です。これはロシアの高炉メーカーは石炭や鉄鉱石等の資源権益を保持しているケースが多く、比較的低コストで半製品を造る事ができるので、価格競争力がある為だと言われています。

この鉄鋼半製品の輸出先の多くは東西ヨーロッパや中央アジア諸国でした。そのためこれまでロシアから鉄鋼半製品を輸入していた各国は、ロシア/ウクライナ情勢が起こって以降は代替として東南アジアの鉄鋼メーカーから半製品の供給へ切り替えざるをえなくなり、玉突きで日本に輸入される鉄鋼製品の供給が少なくなることが見込まれます。

例えば既にヨーロッパに於けるホットコイルの価格は2022年03月28日時点で1,405[EUR/トン]≒1,560[USD/トン](1[EUR]@1.11[USD])と今迄独歩高の様相だったアメリカの72.59[USD/cwt]≒1,598[USD/トン]ホットコイルの価格とほぼ同等で一時的に越える事態も発生していました。特に電炉メーカーを中心にヨーロッパに鉄鋼製品を供給しスクラップを多く消費するトルコでは、黒海を渡ってやってくるロシアからのスクラップやロシア/ウクライナの半製品の供給がタイト化し、その傾向が益々顕著になっている状態の様です。

インフレで鉄鋼原料が高騰している

またパンデミックの影響で世界中に広まりつつあったインフレは、ロシア/ウクライナ情勢により更に加速しており、石炭や鉄鉱石等の鉄鋼原料の先物価格が高止まりしています。

具体的に石炭先物価格は2022年3月初旬に急騰し過去最高価格を更新しました。2022年3月末の現在は過去最高価格より下がっているものの、ロシア・ウクライナ情勢前と比べて依然高い水準にいます。

石炭 先物価格の推移[USD/トン]

[JP][Blog]石炭先物価格2022.03.29
 

銑鉄1トンを生産するにあたり、石炭はおよそ1トン使用されるため、石炭の価格がトンあたり150ドル上昇した場合はトンあたりおよそ150ドルが鉄鋼製品に価格転嫁されることになります。

さらに鉄鉱石の価格も、2021年06月以降の各高炉メーカーが地球環境問題のための減産等で鉄鉱石の先物価格は下落していましたが、11月再び上昇していた状況で、今後も上昇が続いていくことが見込まれます。

鉄鉱石 先物価格の推移[USD/トン]

[JP][Blog]鉄鉱石先物価格2022.03.29

 

銑鉄1トンを生産するにあたり、鉄鉱石はおよそ1.7トン使用されるため、鉄鉱石の価格がトンあたり20ドル上昇した場合はトンあたりおよそ34ドルが鉄鋼製品に価格転嫁されることになります。

2022年3月25日の日本金属通信の記事によると国内の高炉メーカーは、既にこの様な鉄鋼原料価格の上昇を踏まえて5月出荷分の国内店売り・リロール、軽量形鋼向けの薄板3品について、1万円の値上げを申し入れし始めているとも言われています。

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国内電炉メーカーも値上げを発表

一方で製鉄のプロセスに鉄鉱石/石炭を直接使用しない電炉メーカーも足元では値上げせざるを得ない状況です。国内の電炉メーカーは原料となる鉄スクラップの価格上昇のみならずエネルギーコストの上昇の影響を受け、2022年04月の製品販売価格についても急速な値上げに取組始めています。

特にロシア/ウクライナ情勢が悪化した直後の2022年3月上旬頃には、スクラップ価格やエネルギー価格が高騰し供給が不安定になった為、先行きが見えないとし国内の電炉メーカーでもオファー止めを行う業者様も出てきました。

この背景には既に述べたとおりロシア/ウクライナ情勢によりトルコ等のスクラップ輸入国への供給懸念が深刻化し、その波及効果によって世界中のスクラップ価格が玉突きで高騰する現象が発生している為です。

既に東京製鉄は10カ月ぶりとなる全品種の値上げ(鋼板類/鋼管:トン当たり1万円、条鋼類がトン当たり7千円)を発表しました。この傾向はロシア/ウクライナ情勢の先が見えるまでは、電炉メーカーを操業する為のエネルギーコストの上昇のみならず、スクラップという原材料コストの上昇も含めたダブルパンチが効いている状態が継続すると想定されています。

今後のロシア/ウクライナ情勢と鉄鋼製品の購買への考え方

今後のロシア/ウクライナ情勢の動向は、基本的には戦争が大きく拡大しない想定を置けば、ロシアが欧米諸国の牽引する経済制裁に耐えられなくなり短期に終息する場合と、ロシアが経済制裁をどうにか中国やインド等との取引を以て凌ぐこと混乱が長期に渡り継続する場合の大きく2つの方向性があり得ると私たちは考えています。

2022年03月25日に行われた国連でのロシアのウクライナ侵攻をめぐる人道決議案は140ヶ国が賛成し採択された一方で、反対したのはロシア/ベラルーシ/北朝鮮/エリトリア/シリアの5カ国で、中国やインド等の38カ国が棄権しています。

これは2022年03月02日に行われた国連ロシア非難決議に比べると反対は5ヶ国と変わりませんが、バングラデシュやイラクなどの4カ国が賛成に回り、ブルネイやソマリアなど5カ国が賛成から棄権や無投票になっていますので、経済的なインパクトを勘案するとやはり鍵となるのは中国とインドの動向です。

また欧米諸国を中心に行っている経済制裁の効果を見極める大きな目安となるは、ロシアがディフォルトつまり債務不履行を起こすか否かだと思われ、3月末はどうにか乗り切ったので、次の山場は4月末だと想定されます。ロシアの名目GDPは2020年で世界11位で世界全体の約2%程度、中国の約10分の1/日本の約3分の1に相当します。経済大国という位置付けではありませんが、ディフォルトによって生じる経済的な悪影響は様々な所に飛び火するので、それでも相当なインパクトになると想定されます。

一方で各国のロシアに対する経済制裁が長期化する場合にはデフォルトする場合に比べれば短期的なインパクトは小さくなると考えられますが、欧米を中心とし日本を含む先進諸国は制裁を継続する可能性が高く、またそれ以上に世界的に地政学的リスクによる社会不安が蔓延し、広い範囲での世界経済の減退が長期化する可能性が高くなると考えられます。

上記の様にロシア/ウクライナ情勢の先行きはとても不透明になっていますが、現状としては直ちに情勢前の状況に回復する見込みは薄いと私たちは考えています。したがって鋼材価格に関してはロシアが上記のとおり世界第二の鉄鋼輸出国である事を踏まえると供給面での影響が当面は大きく、需給バランスの調整は急速には進まないので、当面価格の上昇や高止まりは継続する可能性が高いと考えています。

これらを踏まえると先ず私たちが行うべき事は、先ずは先々に着実に必要になる鋼材製品に関しては早目に手立てしておくこと、一方で戦況のか拡大や経済制裁に伴う需要減退の可能性も想定し在庫は過剰に持たず、常に納期を確認しながら需要見合いの早目の購入に丁寧に徹する事が妥当だと私たちは考えています。

まとめ

今回はロシア/ウクライナ情勢の影響で急騰している鋼材市況について、その背景を私たちなりに確認し当面の見通しと鉄鋼製品の購入方針への考え方を提示させていただきました。

総括すると鉄鋼製品に関しては供給面の落込みが当面は激しく暫く回復し辛く、それに比して需要面への影響は現状は比較的穏やかですが、今後の戦況及び世界経済からの影響は日本の鉄鋼市場に於いても免れないので、シッカリと変化し続ける状況をフォローし、在庫を持ち過ぎずに機敏に需要見合いの購買判断をして行くことが肝心だと思われます。

足元で市中には一定の鉄鋼製品の在庫がありますが、国際的に供給が価格上昇を伴った上でタイトになることが予想されるため、今後は市中の在庫が少なくなり納期が間に合わないといった問題が発生する恐れもあります。

一方で日本国内の需要は現時点では決して強くはなく半導体不足等のマイナス要因も払拭されていませんが、今回のロシア/ウクライナ情勢により”需要なき更なる値上”が進行するので、当面価格は上げる事はあっても下がる事は合理的にできない状態であり、私たちも早晩製品価格の値上げのお願いを行わざるを得ないと考え、具体的な検討を開始しております。

メッキパイプや単管パイプに関して足元や先々の物件及びその納期や価格動向に関するご質問/ご相談をいただければ、可能な限り正確な状況をお伝えした上で、できるだけご要望に応じていきたいと考えています。ご質問やご懸念のある方は是非、以下のフォームよりお気軽にお問合せください。以上、宜しくお願い申し上げます。ありがとうございました。

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