2022.09.28

ポスコの台風被害で日本の鉄鋼市況はどうなる?鉄鋼業界に於ける日韓関係と今後の見通しについて。

東京製鉄が2022年09月のホットコイルの販売価格を8,000円/トン下げたのち、国内の鋼材市況の一部で広がっていた先安感への不安が漂っていましたが、同社が10月の販売価格を据置する事を発表し、日本のみならずアジアの市況が「どうにか底打ちするのでは?」との見方も少なからず広がってきました。 

一方で先日発生した令和4年台風第11号の大雨により、鉄鋼大手であるポスコの韓国南東部にある浦項(ポハン)製鉄所では広範囲な冠水が発生し、圧延工場などが稼働停止に追い込まれる等の大きな被害が出ています。

2022年07月に日本は韓国から220,168トンの鋼材を輸入しつつ、日本から韓国へ424,522トンの鋼材を輸出していますので、この台風被害により韓国ポスコの供給能力が当面下がってしまう事で、比較的需要が低調であった東アジア及び日本国内の鋼材市況に影響を与えることも大いに考えられます。

そこで今回はこの台風被害により韓国ポスコの浦項製鉄所の圧延工場などが稼働停止した影響について、私たちなりに考察した内容をご紹介させて頂きます。

令和4年台風第11号の概要

令和4年台風第11号は、南鳥島近海にて2022年08月25日に発生し、2022年に初めて1分間の平均風速の瞬間最大風速が68.9[m/s]を超えた猛烈な台風です。

[JP][Blog]令和4年台風第11号令和4年台風第11号進路図

令和4年台風第11号は、韓国の巨済島の上空を通過した後、釜山市付近に上陸し韓国国内で死者11名、行方不明者4名、また韓国ポスコの浦項製鉄所が冠水し、全高炉が停止するなどの経済的な被害をもたらしました。また日本国内でも死者1名が出る被害となっています。

その後も戦後最大の勢力と言われた台風14号が先々週/先週に、また何れも大型と呼ばれている15号が先週/今週日本に大きな影響を与えていますので、物流で海上輸送等を頻繁に活用する鉄鋼業に於いては、需要面/供給面の両方でシッカリ状況の変化を把握し余裕のある対応をする必要があると我々は認識しています。

鉄鋼業界に於ける日本と韓国の関係

以下の文献にも掲載されているように、日本と韓国の鉄鋼業界は、以前より技術協力や貿易が活発に行われており密接な関係にあります。


鉄鋼業は工業化に必要な基礎素材を供給する産業として,多くの国において早くから政府が育成を図ってきた。それは韓国においても同様であり,韓国政府は 1960年代末から鉄鋼業を戦略産業の1つとして育成を図ってきた。韓国鉄鋼業の発展の大きな契機となったのが日本による経済協力であった。韓国初の銑鋼一 貫製鉄所である浦項製鉄所の建設にあたって,日本は資金および技術面で全面的 な支援を行った。浦項製鉄所の事業主体である浦項綜合製鉄(以下,「ポスコ」1)) はその後,飛躍的な成長を見せ,1990年代末には粗鋼生産量で世界第一位の企 業となった。2000年代以降、世界の鉄鋼業では大型合併や中国メーカーの台頭が進んだが,そうしたなかでもポスコは,日本の日本製鉄やJFEスチールとともに、粗鋼生産量でトップ5圏内をほぼ維持し続けている。日韓のあいだでは鉄鋼材の貿易も活発に行われてきた。韓国は急速な工業化の 過程において工業製品の製造に必要だが韓国内では生産できない鉄鋼材につい ては日本からの輸入に依存してきた。そのため,韓国の対日鉄鋼材貿易は赤字を続けていた。特に2000年代には赤字が大きく拡大したが,2010年代に入って縮小に転じている。

日韓経済関係の新たな展開_第3章 鉄鋼業をめぐる日韓関係――協力から本格的な競合へ 
出版者:日本貿易振興機構アジア経済研究所 著者:安倍 誠 より抜粋

また日本と韓国の鉄鋼貿易に関しては、2021年に日本が韓国から輸入した鉄鋼輸入量は約262万トンであり、全体の鉄鋼輸入量約419万トンの62.5%を占めます。一方で2021年に日本が韓国へ輸出した鉄鋼輸出量は約490万トンであり、全体の鉄鋼輸出量約3,440万トンの14.2%を占めるなど、両国間で活発な鉄鋼貿易が行われています。

令和4年台風第11号による浦項製鉄所の被害について

前述の通り令和4年台風第11号の台風による豪雨によって浦項製鉄所が冠水する被害を受けました。浦項製鉄所は年間およそ1,500万トンの鉄鋼製品を生産する工場で、高炉稼動が全て中断されたのは操業を開始した1973年以来初めてだそうです。

速やかに軍隊や政府/民間企業により排水作業が行われ、冠水した翌日の時点で製鉄所内の排水はおよそ90%程度完了したと言われていましたが、一部の設備の稼働には時間がかかる事が見込まれ、被害は数か月に影響が及ぶ規模となっています。

09月中でも既に一部では生産が開始されている状況ですが、韓国ポスコは台風被害にあった浦項製鉄所の復旧計画について、3カ月以内に圧延ラインの回復をすべて完了する予定だと発表しています。

浦項製鉄所の被害が日本の鉄鋼業界に与える影響について

比較的低調だった市況により日本国内や韓国の市中在庫量を加味すれば、被害の大きかった圧延ラインが3ヶ月以内に全て復旧が完了する場合には、日本の鉄鋼業界に与える影響は少ないという見方もあります。

一方で同製鉄所の生産能力は日本国内で最も生産能力の高い製鉄所のおよそ2倍程大きい為、復旧の時期によっては一部で歯抜けの品種やサイズが出てくる可能性も十分想定されます。

日本の鉄鋼業界にとって最大の輸入相手である韓国の市場で在庫薄となれば、日本に輸入される鉄鋼製品の量も少なくなり、日本国内でも同様に輸入鋼材の在庫薄という状況や歯抜けの品種やサイズが出てくる可能性があります。

更に自動車や家電等の欠品による経済的インパクトが大きい用途向けの製品に関しては、緊急性/重要性に応じてポスコから日本メーカーへの支援/協力の要請もあり得る訳で、状況をシッカリ見極める必要があるとの認識です。

まとめ

今回は韓国鉄鋼最大手ポスコへの台風11号による被害について、日韓の鉄鋼業界の関係をおさらいしたうえで、日本国内の鉄鋼業界に与える影響について、私たちなりの考察をご紹介させて頂きました。

兎に角、被害が遭った浦項製鉄所は日本国内に存在しない程の生産能力を有した製鉄所なので、少なからず日本国内の鉄鋼業界にも影響があると予想しています。

特に我々が多く製造/販売させて頂いている単管パイプは全て日本製鉄のホットコイルより製造されていますが、他メーカーに関しては一部ポスコ材を使用していたり、韓国国内でパイプを製造して日本に輸出されている場合があります。

したがって今回の韓国鉄鋼最大手ポスコへの台風11号による被害の影響のみならず、頻発する大型台風の影響でホットコイルの海上輸送や陸揚げの作業が想定通りに行えず、製品の供給量が減ったり納品が遅れたりする事象が起こる可能性が想定される訳です。

既に一部の取引先から特に輸入の単管パイプに関しては価格/量の両面で先行きの不透明さが増しているとの声も頂いていいます。もしこのような状況下でメッキパイプが手に入らずに困っていたり、既に受注している案件の手配に不安を感じている方がいらっしゃいましたら、以下の見積もりフォームからお気軽にお問い合わせください。

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最後までお読み頂きありがとうございました。コロナ禍が醒めやらぬうちにロシア/ウクライナ危機が発生し、急激なインフレが進み世界不況の懸念も囁かれるなかで、台風被害も例年増して増えている様に感じます。

先行きが不透明な時だからこそ、皆さまとの積極的な情報共有/意見交換を踏まえて更に為になり役に立つ取組を頑張って参りますので、引き続き宜しくお願い申し上げます。ありがとうございました。


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