様々な分野で採用が広がっている"ハイテンパイプ"。
性能だけでなく地球環境保護の観点からも注目される一方で、「従来のパイプと何が違うの?」、「どんなメリットがあるの?」と疑問に思われている方もいらっしゃるのではないでしょうか?
そこで今回は、私たちパイプメーカーの視点から、知っておきたい"ハイテンパイプ"の基本情報を分かりやすく解説します。
その特性やメリット/デメリット、具体的な用途まで詳しくお伝えしますので、ぜひ参考にしてください。
"ハイテンパイプ"の基礎知識
"ハイテンパイプ"は、"高張力鋼管(こうちょうりょくこうかん)"とも呼ばれ、”ハイテン”は英語で”高い"を意味する”High”、”引っ張り”を意味するTensile、そして”強さ”を意味するStrength"の組合せの”High Tensile Strength"の略称なので、その名の通り”高い引っ張り強さを持っている鋼管”です。
原料の"ハイテン鋼"とは
"ハイテンパイプ"は主に"ハイテン鋼"から作られます。
"ハイテン鋼"、または"高張力鋼"は、一般的な鋼材とは異なる成分調整を行ったり圧延等の製造工程を工夫することで、強度を大幅に向上させています。
強度を保ちながら、自動車や船舶の自重を下げたり、高層ビルや橋梁等の部材数を減らす為に使われる鋼材であることから、その強度がどれ程のものか想像しやすいのではないでしょうか。
国や鉄鋼メーカーによって引張強さの定義は異なりますが、おおよそ490MPa(N/㎟)以上の鋼材が"ハイテン鋼"とされています。
"ハイテン鋼"については以下のブログで詳しく解説していますので、こちらも併せてご覧ください。
関連ブログ:”ハイテン鋼”ってどんなモノ?!その定義や歴史等をわかりやすく解説。
"ハイテンパイプ"の用途例
建設/土木分野では、単管足場をはじめとする建設用仮設資材に使われています。軽量化を実現し、運搬/組立作業の効率化と安全性向上に貢献しています。
農業分野では、主に農業用ビニールハウスの骨組みに採用されています。その優れた強度と耐久性から、台風や大雪に強いハウスを実現できます。
規格について
"JIS規格"において"高張力鋼管"と名がつくものは、送電鉄塔に用いる"JIS G 3474 鉄塔用高張力鋼管 (STKT)"のみとなっており、足場や農業資材を主な用途とした製品には統一規格がないため、各メーカー独自の様々な規格のもとで販売されています。
なお、当社で製造している"ハイテンパイプ"のうち、足場管である"スーパーライト700"は軽量単管パイプに合わせて改正された"労働安全衛生規則"に適合しています。
また、"STX"は、以下のサイズについて国土交通大臣より"大臣認定"を取得しています。
STX丸型鋼管の国土交通大臣指定建築材料の認定サイズ
※着色部は製造可能範囲 ◎印は国土交通大臣指定建築材料の認定サイズ
いずれも、公的機関から性能に関して客観的な評価をいただいている"ハイテンパイプ"ですので、どうぞご安心ください。
"ハイテンパイプ"のメリット/デメリット
高い強度を持つ"ハイテンパイプ"の具体的なメリットと、導入前に知っておくべきデメリットを解説します。
メリット
"ハイテンパイプ"の導入が広がるのは、それだけのメリットがあるからです。1つずつ見ていきましょう。
軽量化
"ハイテンパイプ"の最大のメリットは、軽量化を実現できる点です。
一般的な鋼管よりも強度が高くなっているため、必要な性能を維持しつつもパイプの肉厚を薄くする事が可能なのです。
当社の"ハイテンパイプ"である超軽量足場管"スーパーライト700"を例に考えてみましょう。
お客さまがこれまで使用していた肉厚2.4mmのパイプ"STK500"を、"スーパーライト700"に置き換えるとします。
"スーパーライト700"は肉厚1.8mmですが、引張強さを約40%向上させているので"STK500"と同等以上の強度を確保でき、従来材に比べておよそ25%の軽量化になります。
パイプが軽量化できれば、輸送コストの削減や作業性の向上につながります。
さらに、輸送時の燃費が向上することでCO2排出量の削減にも貢献し、地球環境保護の観点からもメリットがあります。
製品の高強度化と高付加価値化
もちろん、肉厚を維持したまま"ハイテンパイプ"に置き換えれば、その強度は大きく向上することになります。
より大きな荷重に耐えられる為、"ハイテンパイプ"を材料として活用すれば、製品の安全性や耐久性を高められます。
"ハイテンパイプ"は耐食性も高く、製品寿命も長期化するため、他社製品との差別化を図りやすくなり、製品の付加価値の向上につながります。
トータルコストの削減
とはいえ、「"ハイテンパイプ"は値段が高いのでは?」とお考えになった方もいらっしゃるかもしれません。
確かにキログラムあたりの単価は一般的な鋼管よりも高くなる傾向がありますが、"トータルコスト"の視点では見方が変わってきます。
前述の通り、軽量化により使用するパイプの量を削減できるほか、輸送コスト削減や工期短縮に貢献します。
また、製品の長寿命化により、メンテナンスや交換にかかる費用を長期的に抑制できるため、ライフサイクルコストの削減にもつながります。
このように、材料費だけでなく、輸送、施工、維持管理まで含めたトータルで考えると、"ハイテンパイプ"には大きなコストメリットがあると言えます。
デメリット
様々なメリットがある一方で、"ハイテンパイプ"はその特性上、取り扱いにはいくつかの注意点があります。
加工性の難易度
強度が高いという事は、裏を返せば硬くて曲げにくいということです。
一般的な鋼管と同じ感覚で曲げ加工を行うと、想定通りの曲げ半径が出なかったり、力を掛け過ぎて破断や割れが発生したりする場合があります。
また、プレス加工においても、加工後に元の形状に戻ろうとする"スプリングバック"への対策が必要です。
これらの加工には、"ハイテンパイプ"の特性を理解した上での技術力と、それに対応した設備が求められます。
関連ブログ:STXは扱い辛い?!ハイテンパイプの加工性/スプリングバック/施工性について。
溶接時の欠陥
"ハイテンパイプ"は引張強さが高い一方で延性が低い、熱影響部の品質が低下しやすい等の性質から、溶接割れが発生しやすい傾向があります。
これを防ぐためには、予熱やパス間温度の管理、適切な溶接入熱量のコントロールなど、高度な溶接技術と品質管理体制が不可欠です。
パイプメーカーである私たちには、こうした"ハイテンパイプ"に関する加工や溶接に関する豊富な知見とデータがございます。
お客さまが"ハイテンパイプ"を導入される際には、製品の提供だけでなく、最適な加工方法のご提案まで含めたサポートを行っておりますので、お気軽にご相談ください。
当社で取り扱っている"ハイテンパイプ"
当社では、"ハイテンパイプ"は"スーパーライト700"および"STX"の2種類を取り扱っております。
長年のパイプ製造で培った技術とノウハウを基にした、お客さまの多様なニーズにお応えする高品質な"ハイテンパイプ"となっています。
以下は、当社で製造が可能な"ハイテンパイプ"の一覧です。一部、業者さま向けに在庫販売している製品もありますので、気になるサイズがあれば、お気軽にお問合せください。
スーパーライト700(SL700)
表面仕様 | 規格 | 外形 [mm] |
肉厚 [mm] |
※長さ [mm] |
ポストジンク/パーフェクトポストジンク | SL700 | φ48.6 | 1.8 |
4,000~ 9,300 |
STX
表面仕様 | 規格 | 外形 [mm] |
肉厚 [mm] |
※長さ [mm] |
ポストジンク/パーフェクトポストジンク | STX(700) | φ25.4 | 2.0 |
3,500 ~ 8,000 |
ポストジンク/パーフェクトポストジンク | STX(700) | φ31.8 | 2.0 |
3,500 ~ 8,000 |
ポストジンク/パーフェクトポストジンク | STX(700) | φ34.0 | 2.0 |
3,500 ~ 8,000 |
ポストジンク/パーフェクトポストジンク | STX(700) | φ38.1 | 2.0 |
3,500 ~ 8,000 |
ポストジンク/パーフェクトポストジンク | STX(700) | φ42.7 | 2.0/2.6 |
3,500 ~ 8,000 |
ポストジンク/パーフェクトポストジンク | STX(700) | φ48.6 | 2.0/2.3 |
3,500 ~ 9,300 |
ポストジンク/パーフェクトポストジンク | STX(700) | φ60.5 | 2.0/2.3/2.6/2.8 |
3,500 ~ 9,300 |
ポストジンク/パーフェクトポストジンク | STX(700) | φ76.3 | 2.3/2.8 |
3,500 ~ 9,300 |
パーフェクトポストジンク | STX(700) | 50 x 50 | 2.6 |
3,500 ~ 9,300 |
パーフェクトポストジンク | STX(700) | 60 x 60 | 2.0/2.6 |
3,500 ~ 9,300 |
パーフェクトポストジンク | STX(700) | 75 x 45 | 2.0 |
3,500 ~ 9,300 |
パーフェクトポストジンク |
STX(780) |
25.4 | 1.2/1.6 |
3,500 ~ 9,300 |
パーフェクトポストジンク | STX(780) | 31.8 | 1.2/1.6 |
3,500 ~ 9,300 |
パーフェクトポストジンク | STX(780) | 38.1 | 1.2/1.6 |
3,500 ~ 9,300 |
パーフェクトポストジンク | STX(780) | 42.7 | 1.2/1.6 |
3,500 ~ 9,300 |
(※長さは製造可能な範囲を表記)
お客様のご要望に応じたサイズでのオーダーにも柔軟に対応いたします。
また、"ハイテンパイプ"の選定から加工に関するご相談まで、担当者がバックアップいたしますので、お気軽にご相談ください。
地球環境にも貢献する資材
"ハイテンパイプ"は、製品ライフサイクル全体で環境負荷の低減に貢献する資材です。
最大の特長である軽量化は、鉄源の省資源化や輸送効率の向上と燃費の改善につながり、CO2排出量を削減します。
また、高い強度と耐久性により製品が長寿命化するため、交換する頻度が減り、長期的な省資源にもなります。
もちろん、原料である鋼鉄は"鉄スクラップ"としてリサイクルが可能です。
"ハイテンパイプ"は、使用後も再び資源として循環利用できるため、廃棄物を削減し、持続可能なものづくりを支える上で重要な役割を担う資材といえます。
まとめ
今回は、"ハイテンパイプ"の基本的な特性からメリット、用途等を解説しました。
"ハイテンパイプ"は単に強度が高いパイプというだけではなく、製品の軽量化や安全性の向上、トータルコストの削減、高付加価値化等に貢献できる資材です。
従来の鋼材では難しい課題を抱えていらっしゃる場合、その解決の糸口は、"ハイテンパイプ"にあるかもしれません。
内容に関するご質問やご相談、当社の"スーパーライト700"や"STX"についてのお問合せは、以下のフォームよりお気軽にご相談ください。
最後まで読んでいただき感謝申し上げます。引き続きよろしくお願いいたします。ありがとうございました。
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