令和4年台風第14号は日本各地に大きな被害をもたらし、
今後新しいビニールハウスを建てる場合は、この経験を活かして台風対策として強靭化を進める事が望まれますが、台風に強いパイプハウスを設計するにはどうすれば良いかを、具体的に思いつく方は少ないのではないでしょうか?
パイプハウスを強靭化する為には部材や金具の強度を上げるのみならず、地盤条件によってはパイプハウス全体が引き抜けたり地面にめり込んでいかないようにしなければなりません。
そこで今回は、私たちが農業資材として使われるパイプのメーカーという視点で、パイプハウスを強靭化する
ビニールハウスの台風性能について
パイプハウスは構造自体が非常に柔らかく、風の力を受けて変形量が大きくなります。丸屋根式もしくはアーチ型と呼ばれる単棟ビニールハウスに対し横風があたった場合は、以下の図のような向きの力を受けると言われています。
パイプハウスはこれらの力を受け、以下の様な形に変形する事が想定されます。(※変形の形状が分かり易いよう、変形量を誇張して表現しています。)
変形量が大きくなると、アーチパイプと母屋材を接合している金具や被覆材への負担が大きくなる等の不具合が発生します。またパイプハウスは上記の変形とともに、風上側の基礎には持ち上げられる力が加わります。
つまり台風に強く壊れないパイプハウスを設計する為には、①ハウスの部材を強くする、②ハウスの変形量を抑える、③基礎を強くするの3点を十分に考慮し対策を講じることが必要になってきます。
①ハウスの部材を強くする
パイプハウスの骨組みとなるメッキパイプや接合金具に、許容できる強度を超えた力が加わった場合は破壊してしまいます。そこで私たちのハイテン鋼管STXなどの強度の高い部材を使用すれば、許容できる強度が大きく台風にも強いパイプハウスを設計することが可能になる訳です。
ハイテン鋼管 STX
STXは従来材と呼ばれるSTK400という規格の部材に比べ、約2倍以上の強度を持つ高抗張力鋼管です。下記の表の通り機械的性質である引張り強さ/降伏点又は耐力/伸び及び設計基準強度は一般鋼管とは随分違う事が分かります。
②ハウスの変形量を抑える
ハウスの変形量を抑える方法としては、パイプハウスの形状を工夫する事や使用するパイプの外径を太くすることが挙げられます。
ハウスの形状を工夫する
ハウスの変形量を抑える為には、できる限りハウスの高さを抑えることが有効になります。
以下の図のように風の荷重を長さ当たりに等しく力が加わる等分布荷重と考えた場合に、高さを抑えた場合にはどの程度変形量を抑えられるかを確認してみましょう。
上記のようなモデルの場合、変形量は以下の公式で求められます。
δ(変形量) ={ w(当分布荷重) x L4 }/{ 8 x E(ヤング係数) x I(断面二次モーメント) }
つまり変形量は高さの4乗に比例する為、高さを低くすることで大幅に変形量を抑えることが可能になります。
しかし実際は、パイプハウス内で作業する為に必要な空間を確保する必要もあるので、育成する農作物やパイプハウス内で行う作業の効率を十分に考慮して設計することをオススメします。
パイプの外径を太くする
一般的にパイプハウスの変形量は、たわみの理論によると"材質(ヤング係数)"と"断面(断面二次モーメント)"に反比例します。材質に関してはハイテン材を使用しても数値が変わらない為、外径や厚みを大きくして"断面(断面二次モーメント)"が大きなパイプを選定すること有効です。
また同じ外径でも厚みが異なる製品は、なかなか市中で入手し辛いので、外径を大きくすることで効率よく変形を抑える設計を行うことが可能になります。
外径[mm] x 厚み[mm] | 強度[N/mm2] | 断面積[cm] | 断面二次モーメント[cm4] |
19.1 x 1.2 |
290〜400 | 0.675 | 0.271 |
22.2 x 1.2 | 290〜400 | 0.792 | 0.438 |
25.4 x 1.2 | 290〜400 | 0.912 | 0.669 |
31.8 x 1.6 | 400 | 1.52 | 1.74 |
42.7 x 1.6 |
400 |
2.07 |
4.37 |
48.6 x 2.4 |
500 |
3.48 |
9.32 |
48.6 x 1.8 |
700 |
2.65 |
7.26 |
③基礎を強くする
ビル等の一般的な建築物であれば過大な自重があるので風の力では殆ど浮き上がる心配がないのですが、パイプハウスは自重が軽い為、引抜きに対して抵抗する措置を施さなければなりません。
また地盤が緩い場合には、押し込まれる力によって一部のアーチパイプが地面にめり込んでしまう等の被害が発生する場合もあるので、基礎を強化することがとても重要です。
沈下止めパイプ
沈下止めパイプとは、地中差し込み部分の剛性を高める為に使用される、地面の直ぐ上もしくは地中に配置する胴縁のことです。
引用:NPO法人ジョブファーム_ジョブファーム活動ブログ_沈下防止用パイプ取り付け (2014/08/18)
沈下止めパイプを設置する事で、剛性が高まる為アーチパイプがより一体となり、引抜きや地面にめり込む力をより均等に分散させることができると考えます。また沈下止めパイプ自体が地面に抵抗し、地面にめり込み難くなる事も考えられます。
くい丸®︎
くい丸®は、長年に渡って多くのプロユーザから支持されてきた鋼管杭で、押込み・引抜きの強度が単管パイプの2.5倍という抜けにくさと、柔軟な施工性が特徴でコストパフォーマンスにも優れています。
くい丸®は以下の紹介動画がありますので是非、動画をご確認下さい。
施工性に優れているという事は、現場の人件費の削減に大きく寄与することが可能であり、また 建築現場の仮囲いやフェンス及び太陽光発電基礎にも多く採用されているので、数多くの現場で安全/安心に使用できます。
株式会社くい丸の公式HPでは詳細な仕様等が記載されていますので、以下のリンクよりご確認下さい。
あしがためTM
「あしがためTM」は、プレパックド充填方式により現地構築する基礎コンクリートです。
基礎重量を対象とした設計手法がシンプルであり且つ地盤条件への影響が少ないので、取り扱いに苦慮するコンクリート製品等の重量物と同等の効果が期待でき、経験・熟練を必要とせず施工性にも優れているので、品質管理の手間やを時間を大幅に軽減することが可能です。
「あしがためTM」について詳細を知りたい方は、以下のリンクよりお問合せ下さい。
リンク:お問合せ | 佐藤産業株式会社
まとめ
今回は私たちパイプメーカーの視点でビニールハウスを強靭化する方法を、①ハウスの部材を強くする、②ハウスの変形量を抑える、③基礎を強くするの3点について詳しくご紹介させて頂きました。
もし台風によって農業用ハウス/畜舎等の施設や農業用機械/作物の被害に遭われた方は、事後に国等の台風関係の補助事業の対象となる際の提出資料として必要になる被害写真を撮っていただく事を推奨いたします。
そして当社では今後ともより台風や積雪に強いビニールハウスの開発を実現していく為にも、台風や大雪などの自然災害による被害写真及び破損したパイプ自体の収集/分析に積極的に取組んで行きたいと考えています。
収集にあっての費用負担や今後の取組のご報告もシッカリ行って参りますので、当社のこれら取組にご協力頂ける場合は以下のお問合せフォームよりお申込ください。担当者が対応のご相談について電話でご連絡いたします。
最後まで読んで頂きありがとうございました。これからもパイプメーカーの視点でビニールハウスの強靭化に徹底的に取り組み、農家のみなさまへの為になるお役立ちを充実して参りたいと思います。引続きご協力/ご支援の程、宜しくお願い申し上げます。ありがとうございました。
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