"AD関税"のメッキ鋼管への影響や如何に?!その内容や今後の資材調達への波及を、データを元に解説・考察。

令和08年08月04日に財務省から、韓国産及び中国産の溶融亜鉛めっき鋼帯及び鋼板に対する暫定的な"AD (アンチダンピング)関税"の課税決定が発表されました。

 参照:大韓民国産及び中華人民共和国産溶融亜鉛めっき鋼帯及び鋼板に対する暫定的な不当廉売関税の課税を決定しました|財務省

しかし、「そもそも"AD関税"って何?」や、「現場には具体的にどんな影響が出るの?」といった、素朴な疑問も抱いている方も多いのではないでしょうか?

そこで本記事では、今回発動された"AD関税"の仕組み、貿易統計及び市況データから読み解く現状、そして今後の”メッキ鋼管”の調達において検討すべき対策について、当社の認識と考察を提示させていただきました。皆さまが今後の鋼材調達していく際の一助になれば幸いです。

そもそも"AD関税"とは?

先ずは"AD関税"について、その概要を整理しておきましょう。

不当な安売りから国内産業を守るための措置

"AD関税"とは、ある国の輸出企業が、自国内の価格よりも不当に安い"ダンピング価格"で輸出し輸入国の国内産業に損害を与えていると認められた場合、通常の関税に上乗せして課される特別な関税です。

[JP]アンチダンピングイメージ図

海外から極端に安価な資材が大量に流入すると、国内のメーカーは価格競争についていけず、産業自体が衰退してしまうリスクがあるため、そうした事態を防いで公平な市場競争環境を維持するために国が講じる法的措置が"AD関税"なのです。

申請の背景と暫定関税発動のプロセス

今回の"AD関税"は、国内の鋼板メーカーが「安価な輸入材の増加により国内産業が損害を受けている」として経済産業省および財務省へ調査申請を行ったことが起点となっています。

調査の結果、令和08年08月04日に財務省より"溶融亜鉛めっき鋼帯及び鋼板"暫定措置の決定が発表され、同年08月08日から12月07日までの期間、韓国産および中国産の対象製品に対して29.2~55.3%の暫定関税が課されることとなり、さらに詳細な調査を継続するため、調査期間が2026年12月12日まで延長されることが決定しています。

ここで注目すべきは、"溶融亜鉛めっき鋼帯及び鋼板"だけでなく、"冷延鋼帯及び鋼板"や"熱延鋼帯及び鋼板"についても、今後同様に"AD関税"の適用検討へ発展する可能性が取り沙汰されているという点です。

 参照:日本の調査事例を調べる(調査報告書等)|経済産業省

これらを受けて、日本国内で輸入材を調達するコストが大幅に変動する可能性が生じたことで、国内の鉄鋼市場には変化の兆しが現れています。

 データで見る鉄鋼市況と供給環境の現状

ここでは、専門紙や業界団体の公表データを元に、現時点で確認できる統計や価格データを整理します。

① 溶融亜鉛めっき鋼板価格は高水準で推移

"産業新聞"によると、AD調査の開始を受けて、東京地区の薄板市況では溶融亜鉛めっき鋼板がトン当たり5,000円上昇したとのことで、溶融亜鉛めっき鋼板は、2022年07月以来、実に約4年ぶりの上昇となったようです。

 参照:東京・薄板 溶融亜鉛めっき鋼板 市況5000円上伸|産業新聞

② 韓国材/中国材の輸入動向

"一般社団法人日本鉄鋼連盟"の2026年01〜07月貿易統計によると、今回の暫定関税対象である亜鉛めっき鋼板と調査対象となっている冷延鋼帯/熱延鋼帯の韓国・中国からの輸入量の動向は以下の通りです。 

  韓国からの輸入量 中国からの輸入量
亜鉛めっき鋼板  約430万㌧規模(前年同期比 14%減)  約30万規模(前年同期比 80%減)
熱延広幅帯鋼  約430万規模(前年同期比 9%減)  約60万規模(前年同期比 26%減)
熱延帯鋼  約4万規模(前年同期比 19%増)  約80万規模(前年同期比 48%増)
冷延広幅帯鋼  約320万規模(前年同期比 10%増)  約20万規模(前年同期比 49%減)
冷延鋼板  約1万規模(前年同期比 96%減)  約30万規模(前年同期比 60%減)

国内の輸入鋼板市場においては韓国材のシェアが圧倒的に大きい状況ですが、韓国材/中国材ともに暫定関税の発動に先立ち、輸入実数が大幅に減少している品目が増えていることがデータから読み取れます。

 参照:一般社団法人日本鉄鋼連盟 鉄鋼貿易統計

③ 輸入指標としての東京地区岸壁在庫の動向

輸入材の流通動向を示す指標として、主要港における"岸壁在庫"の推移があります。

このデータは、阪和興業株式会社が提供していますが、2026年07月末時点のデータによると、東京地区の岸壁在庫量は3万トン台まで減少しています。

  • 平時の水準: 約5万〜6万

  • 2026年07月末の水準: 3万4,000

  • 平時に対して56〜68% で過去最低の水準


[JP]東京岸壁在庫量推移グラフ

 出典:阪和興業株式会社「岸壁在庫量推移表2026年07月末」をもとに筆者作成

尚、在庫量の推移は、 供給面の数字である"輸入量"だけでなく、需要面の数字となる"出荷量"とのバランスによって変動するため、在庫減少のみをもって"供給不足"と断定はできません。

しかし、”輸入量”の減少データと合わせて見ると、輸入鋼板の流通量が絞られている傾向を読み取ることができます。

当社の考察  :  輸入材の減少が国内供給網に与える影響

ここからは、上述した客観的データを踏まえ、今後の資材調達環境について当社の見解をお伝えします。

輸入需要の"国内シフト"による影響

関税発動や輸入量の減少に伴い、これまで韓国材や中国材などの輸入材を活用していた流通筋や加工メーカーが、国内の高炉/電炉メーカー品へ調達を切り替える、国内シフトの動きが考えられます。

しかし、国内メーカーの生産能力には適正な上限があるため、一時期に需要が国内材へ集中した場合、特定の品種やサイズにおいて納期の長期化や受注制限が発生する可能性が推測されます。

ホットコイル・冷延鋼板の供給/コスト動向の影響

今回関税の対象となったのは"溶融亜鉛めっき鋼帯及び鋼板"ですが、めっき鋼板の製造コストや供給量を左右するのが、その母材である"熱間圧延鋼板"や冷間圧延鋼板"です。

日本鉄鋼連盟の輸入統計で見ると、めっき鋼板だけでなく、母材となる"熱間圧延鋼板”つまり”ホットコイル"や、"冷間圧延鋼板”つまり”冷延鋼板"についても輸入量が減少している品目が多い傾向にあります。

仮に今後、母材となる熱延/冷延分野へも"AD関税"の適用検討が広がった場合、国内のめっき加工メーカーの原料調達コスト押し上げや、生産枠の逼迫につながる懸念が生じます。

つまり上流品目の動向は、最終製品である亜鉛めっき鋼板の加工品等の価格や納期にも、時間差がありながらも一定以上の影響を及ぼす可能性がある訳です。

事前手配/早期確定による調達リスクの低減

亜鉛めっき鋼板の加工品は、建設資材/農業用架台/土木資材など、多岐にわたる現場で不可欠な部材ですが、必要になった段階で手配する場合には、希望する納期に手配が間に合わなくなるリスクが考えられます。

”メッキ鋼管”も亜鉛めっき鋼板の加工品の一つなので、工事計画や製造計画の見込みが立った段階で早めに仕様/数量を確定させ、仕入れ先へ打診しておくことが、納期の確実性を高める有効な手段になると当社では考えています。

まとめ : データに基づく冷静な市場分析と調達対応

本記事では、"AD関税"の発動プロセスと、各種データから見られる市場の現状について整理した内容は以下のとおりです。

  • 暫定関税の発動: 財務省が韓国産/中国産の溶融亜鉛めっき鋼帯等へ暫定AD関税を対象製品に対して29.2~55.3%で決定。
  • 輸入量の減少: 貿易統計ではAD関税発動前の1〜7月から韓国材(約95〜100万㌧・14%減)、中国材(約10〜12万㌧・80%減)ともに減少。
  • 低水準の岸壁在庫: 阪和興業のデータによると、東京地区の岸壁在庫は3万4,000と過去最低水準で推移。
  • 上流品目への影響: めっき鋼板の母材であるホットコイルや冷延鋼板への”AD課税”の動向も、今後の"メッキ鋼管”の供給/コストに影響を与えるポイントとなる。
  • 当社の考察: "メッキ鋼管”についても、亜鉛めっき鋼板の加工品の一つとして、国内材への需要のシフトや母材コストの影響が進む可能性があり、納期遅延や価格変動リスクに注意した調達への備えが必要である。

市場の変動に対しては、偏った情報に惑わされず、客観的な数値をもとに早めの計画/手配を行うことが重要です。

当社のメッキパイプ製品に関する納期や在庫状況のお問い合わせ、お見積りのご依頼がありましたら、下記フォームよりお気軽にご連絡ください。

 

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最後までお読みいただき感謝申し上げます。引き続き宜しくお願い申し上げます。ありがとうございました。

執筆者紹介

須藤 麻畝
須藤 麻畝
大和鋼管工業(株)企画部企画に所属する勤続6年目の社員。教育学部美術分野卒で、美術/工芸の教員免許3種類を保有する知識を背景に、教育系基礎知識記事の執筆を担当。企業視点と教育的知見を融合させたDIYレポートや、キービジュアル作成/写真撮影などの視覚的なデザイン設計も担う。

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